日記:「虚構推理短編集 岩永琴子の出現」
虚構推理シリーズ第2弾となる短編集。
タイトルは「虚構推理」だが、一作目ほどには「虚構推理」をしていない短編も入っている。
どちらかと言えば、「虚構推理」シリーズの世界やキャラクターが出演する番外編という感じで、全部が全部「虚構推理」という感じではないし、ミステリっぽくない短編もある。
それでも「ヌシの大蛇は聞いていた」や「幻の自販機」あたりはまさしく設定を活かした「虚構推理」が楽しめる短編になっていて、まったくミステリじゃないということでもない。
特に「幻の自販機」は、化け狸のいたずらのせいで意図せずアリバイができてしまった殺人犯(しかも自白済み!)のアリバイを崩すという一風変わった設定の短編で、虚構推理でしか成立しそうにないシチュエーションの推理劇が楽しめる。作中で提示された発想の転換もはっとするもので面白かった。
上で上げた2本の短編はもちろん、個人的には「電撃のピノッキオ、あるいは星に願いを」と「ギロチン三四郎」が好き。「うなぎ屋の幸運日」も、岩永琴子のお役目が掘り下げられる次作スリーピング・マーダーにつながる話として重要。
「電撃のピノッキオ~」は、語り部となる多恵さんが魅力的。若者が主役のシリーズなのに八十歳の多恵さんが語り部になっているのがちょっと異色だが、理知的でありながら化け猫と良い感じに同居したり、面白いキャラクターをしているなぁと思う。
事件がひと段落した後の、主役二人組と多恵の会話が印象に残る。下記の岩永琴子の台詞とか。
「いえ、あなたがここにいてくださったおかげで、私は今日おいしい朝ご飯を食べています。感謝の言葉もありません」 p.183
「ギロチン三四郎」は、上で言及した「うなぎ屋の幸運日」とセットで岩永琴子(もしくはその役目)の語る倫理や秩序が何を重視するものなのかを描く短編であるとと共に、同じ趣味を持った大人と子供の年齢を越えたある種の情の話としても良かった。