日記:上半期に読んだミステリの感想

3月~5月にかけてミステリ小説をちょっと読んでいたが、途中で感想を書く作業が追い付かなくなっていったので、まとめて雑に感想を書いてみる。

ネタバレはないつもり。

ちなみに今はかなりミステリに飽き気味です。ただ「エラリー・クイーンの冒険」の新訳も出たし、8月に「王とサーカス」の文庫版も発売されるし、これからちょいちょい読む感じもする。 

「ロシア紅茶の謎」「水車館の殺人」「水族館の殺人」「神様ゲーム」「翼ある闇」「ビブリア古書堂の事件手帖3,4」「冷たい密室と博士たち」の感想を書いています。

なんか表紙の画像の代わりとしてAmazonのリンクを貼りまくっていますが、特に広告費が入ったりはしません。アクセス数的にたかがしれているし。 

 

 

 

・ロシア紅茶の謎

 表題作がすごくよかった。衆人環視による毒殺トリックは、撲殺とかと違って毒を盛るという動作が手早く目立たずに行えるものだからか、細部を突き詰めた緻密なものが多いと思う。表題作「ロシア紅茶」の謎は、緻密かつ大胆なトリックに度肝を抜かれた。

ダイイングメッセージがあまり好きじゃないのでそれ系の事件はあんまり好きじゃなかったけど、「赤い稲妻」のある種の消失トリックにはとても納得できた。「ルーンの導き」もダイイングメッセージには納得がいかなかったけど、シンプルで明快な謎解きは必見。

読者への挑戦状つきの「八角形の罠」はちゃんと犯人を当てられて嬉しかった。

 

水車館の殺人

「十角館」に続き、二冊目の綾辻行人。上の有栖川有栖とかと比べると、幻想・怪奇みたいなところに重点が置かれてるのかな。

「十角館」は「孤島」と「孤島の外」という二重の舞台を上手に生かした作品だったわけだけど、「水車館」も同様に「過去」と「現在」という二重の舞台の扱いが綺麗。ただ本格推理というだけでなく、物語の構造に縛りを加えることがシリーズの統一感にも貢献していると思う。

仮面の男、塔の令嬢、限られた人間だけが招かれる画家の展示。これでもかというほどの幻想趣味に対して、作中で提示される謎は「十角館」に対してずいぶん堅実な内容。堅実だからこそ、ラストで提示されるあてどない幻想の檻に対して、途方もない気分になる。

 有栖川有栖による情熱的な解説がよかった。

水車館の殺人 <新装改訂版> (講談社文庫)

水車館の殺人 <新装改訂版> (講談社文庫)

 

 

・水族館の殺人

以前とりあげた「体育館の殺人」の続編 

日記:「体育館の殺人」 - しゆろぐ

2作目が『水』族館なのは、たぶん上でとりあげた『水』車館のパロディだと思う。

「体育館」のシンプルな証拠から引き出される膨大な推理に比べると、証拠品の数も増加気味で、ちょっと複雑にはなっているかもしれない。しかしながら容疑者全員にアリバイがある状況からあっという間に容疑者全員のアリバイがなくなるという転換など、あくまで本格でありながらエンタメとしての面白さも欠かさないところがいい。

巨大水槽のサメに死体が食べられる、というド派手な事件発覚が目を引くが、ただ目を引くだけでなく、「どうしてどういう状況になったのか、ミスなのか、そうせざるを得なかったのか、それとも他に意図があったのか」というところにきちんとミステリとしての意味がある。

キャラミステリとしては、もう一声!という感じもあるけど、そっちについては今後に期待。

水族館の殺人 (創元推理文庫)

水族館の殺人 (創元推理文庫)

 

 

神様ゲーム

事件の犯人を推理なしで言い当ててしまう神様と、神様のクラスメイトである小学生の謎解きの物語。

言うまでもなく、この神様は、「ミステリにおける回答提示役」としての探偵を突き詰めてしまった存在をあらわしている。麻耶雄嵩だし。そういう風に、犯人がわかっている状態から転倒した推理が繰り広げられるのが面白いし、推理の先に当てたと思った犯人がまったく別の人間だったりするというのもいい。

なんとなく読んでいて「向日葵の咲かない夏」の不穏さを思い出す作品でもあった。ただ、ミステリの構造を問い直す作品にしても、小学生を主人公にした気分悪くなる系ジュブナイルにしても、なんとなく中途半端な印象は否めないかも。

神様ゲーム (講談社文庫)

神様ゲーム (講談社文庫)

 

 

・翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件

 麻耶雄嵩のデビュー作。この作品でデビューしてよく生き残れたな、という感じもする。

人が死んでいるのに、容疑者全員にアリバイがなかった、特にめぼしい証拠はなかった、というような要約した内容が書かれ、実際に取り調べのパートがほとんどない序盤に面食らった。登場人物は大量にいるのに、台詞が一切なくて判別がつかないまま新しく人が死んだり。

事件が進んで中盤からちゃんと推理が始まる。このあたりから始まる二転三転する推理は面白い。探偵が失敗したり二人でてきたり。果てにはとんでもない推理をして探偵が犯人を神と呼んだり。(神のごとき犯人、というのは後期のクイーンが元ネタなのかもしれないけど、後期のクイーンを読んでいないのでわからない)

ただ最後まで読んでこれを人に勧めるかというと、勧められない作品。圧倒的な信頼があれば勧められるかな。

翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件 (講談社文庫)

翼ある闇 メルカトル鮎最後の事件 (講談社文庫)

 

 

ビブリア古書堂の事件手帖3・4

3巻は1巻2巻までと同じように本にまつわる雑学を知りつつちょっと面白いミステリが読める感じでよかった。短編全体に通底する「栞子さんと母」に関する疑念が物語としていいアクセントになっている。

4巻は一つの短編集ではなく長編。長編で江戸川乱歩を選ぶあたりが流石だと思うし、作中に登場するこの世に存在しないはずの原稿の設定には心惹かれる。そしてその心惹かれる宝物の存在が、単なるマクガフィンではなく、栞子の決断をいい感じに引き立てる要素として機能している。

本の物語としても、謎の物語としても、キャラクターの物語としても楽しめてよかった。

 

冷たい密室と博士たち

 「水車館の殺人」と言い、1作目が大胆だった作家こそ2作目は堅実なミステリで実力を見せてくるのかもしれない(麻耶雄嵩とかは違うか)。「すべてがFになる」の作者の第二弾。実際にはこの作品を持ち込んだとか投稿したとか聞いたけど。

密室に関してはとても堅実な推理が楽しめる作品。タイトルにもある「冷たい密室」の非日常感が中盤で恐怖に変わったりして面白い。

冷たい密室と博士たち (講談社文庫)

冷たい密室と博士たち (講談社文庫)