日記:「ダンガンロンパ霧切」(1)~(7)

ダンガンロンパ(初代)のゲーム配信がラストまで解禁になったそうです。

もちろん、初代のゲーム配信を見て2やV3を買う人もいるので販促にはなるんだろうけど、この手のゲームって配信許諾出して大丈夫なのか?と勝手に心配する気持ちもあったんですが…………

……結果としてわたしが「ダンガンロンパ霧切」を大人買いして読んだので、そういう意味でもゲーム配信の許諾を出したのは成功だったと思います。(俺基準)
ゲーム自体は既にプレイしていたのですが、ゲーム配信を見て懐かしくなって外伝小説に手を伸ばしていました。

 

ダンガンロンパ霧切はダンガンロンパに登場する霧切響子の前日譚となる外伝小説です。執筆は本格ミステリ作家の北山猛邦さん。

ただ、しっかりと本格ミステリでありつつ、ダンガンロンパシリーズらしく荒唐無稽な内容で、犯罪被害者による復讐である「黒の挑戦」がシリーズの主題になっています。「黒の挑戦」は復讐の対象になるターゲットの情報と復讐を実行するためのトリックを授かる代わりに、トリックに応じた探偵を呼んで、探偵に勝つことで復讐を達成するという謎のシステムです。

どんどん、復讐の主体である犯人より、「黒の挑戦」を運営する「犯罪被害者救済委員会」がメインになっていったりして、それはどうなんだとも思うのですが。

 

個人的に好きだったのは1巻と6巻と7巻。

1巻はシリーズを通して霧切響子の相棒ポジションである五月雨結と霧切響子の出会いの話。

6巻は、「黒の挑戦」に関する展開を色々と捻っていった結果、「銃撃戦で殺人を事前に防ぐ」という突拍子もないゲームが始まります。その名も『Shoot down the angel』。主人公たちは犯人がトリックに使おうとしている道具を遠くから狙撃して殺人を防ごうとして、ライバルとなる敵は犯人が殺人を達成できるように主人公たちを狙撃することになります。

上に書いたような復讐の主体である犯人がないがしろになっている展開なのですが、「事件が起こる前に探偵が事件を未然に防ぐ」というミステリではなかなかできない展開を面白く描いている点が凄いです。

そして、7巻は、当然ながら最終巻なので色々凄いです。1巻の舞台だったシリウス天文台に再び訪れることになる展開が良いです。

 

全体的に、紛れもなく天才として描かれる霧切響子に対する、必ずしも天才ではない、どちらかと言えば凡人寄りの五月雨結のふるまいが好きでした。彼女の好きな台詞を2つ引用します。

1つ目は、霧切響子が自分が探偵である理由について「考えたことはない」という趣旨のことを言ったときの台詞です。

「かっこいいよ。君は生まれながらの探偵なんだ。でもいつか……君もわたしと同じように、その理由に悩むかもしれないね。その時はどうか、清らかなままの君でいて。それだけは君に云っておきたい」

(『ダンガンロンパ霧切1』loc. 2337 of 2347)

2つ目は、霧切響子の推理についていけず、そこで少しやりとりに齟齬があって、ちょっとした喧嘩のような雰囲気になった場面の台詞です。

「君の頭の中は、いつもわたしよりずっと先に進んでて、追いかけるので精一杯だよ。でも必要なことがあればわたしを頼って。わたしにできることなんて、そんなにたくさんはないかもしれないけど」

(『ダンガンロンパ霧切2』p.260)

五月雨結、霧切響子という圧倒的な才能を前にして、嫉妬するのでもなく、自分とは違う世界の住人だと線を引くのでもなく、敬意を持った上で等身大の中学生として接してあげられる人なんですよ。

年下(中学生)の天才を前にして、その天才の行動についていけなくて険悪になりそうになったとき、こんなこと言える高校生がいますか?という話なんだよな、五月雨結……。

そんなわけで、霧切響子の中学生時代に五月雨結という人がいて本当によかったと思いながらシリーズを読みました。これって外伝としてはとてもすごいことだと思います。

ゲーム本編の霧切さんって割と人情味に溢れている人なんですが、そういう部分にも五月雨結の影を感じます。いや、五月雨結は後付けの存在なんですが……そう思えるくらい良い外伝小説であるということ……。

以下、ネタバレ

 

上で、「黒の挑戦」を運営する「犯罪被害者救済委員会」がメインになっていったりしてと語っていましたが、それに似た部分でだんだんと「それってトリックがどうこうじゃなくて、犯罪被害者救済委員会が用意した設備が凄いだけじゃねーか!」という気持ちになるところもありました。

特に3巻~5巻の展開はちょっときつく感じてしまいました。いや、ページをめくってもめくっても「黒の挑戦」が出てくる展開とかはサイコーだし、キャラも好きなんですが、少年漫画で敵陣営と味方陣営の1on1が同時進行で進んでいくバトルシーンみたいな厳しさが……。枯尾花学園のトリックは比較的好きだった。

 

さて6巻ですが、「霧切響子の中学生時代に五月雨結という人がいて本当によかった」と思いながら読んでいたからこそかなり悲しかったです。

(復讐の対象が誰であるかわかっていない点でも)五月雨結は直接の殺人犯にはならなかったわけですが、その一方で間違いなく「人が死ぬこと」を許容した上であの事件の当事者になったんだろうなと思っています。「たとえわたしの手が汚れていたとしても」という部分は、直接殺していないにせよ、それを許した時点で五月雨結にとっては同じだという話だと思っています。

(最終的に覆される解決ですが)五月雨結が犯人であるという推理において、鍵となる証拠品が「五月雨結が霧切響子に買ってあげたリボン」という展開は壮絶。壮絶すぎて気持ち良くなりながら泣きました。めちゃくちゃダンガンロンパらしくて、絶望的すぎて気持ち良くなってしまう展開です。

シリウス天文台のびっくり大仕掛けによって五月雨結を除外できなくなる展開によって、真犯人も条件は同じだったことの目くらましになっているところも地味に周到で良いです。五月雨結を犯人だと指摘したくないのにそう推理してしまう霧切響子の感情が悲しすぎて本当につらかった……。

 

最終巻で火傷について回収することは想定通りでしたが、片側だけ三つ編みにしているというキャラクターデザインまで外伝小説の中で回収しているのは本当に美しいと思います。いや、三つ編みの描写で多くの人は気づいていたんだろうとは思いますが、俺は全然スルーしていた……。

五月雨結からの手紙に感じ取れた、亡くなった人に話を聞くことはできないが、推理をすることはできるという部分も、ダンガンロンパの一章のラストに繋がっていてとてもよかったです。