日記:「時計館の殺人」推理編
「人形館」に続いて、「時計館の殺人」を読んでいる。
個人的に、水車館以降の館シリーズは「時計館」をひとまずの目標として読んでいたところがある。ミステリとしては、割とストレートな内容とも聞いている。
そんな訳で、ちゃんと推理をしてから解決編を読みたいと思い、いったん自分の推理をまとめてみることにした。
画像として新装改訂版の「時計館の殺人・上」を貼り付けているが、実際に読んでいるのは一冊で終わる旧バージョンの文庫版になっている。
どこから解決編になっているかはわからないので、ひとまず「第十三章 ≪旧館≫その6」までを読んだ時点の推理を書き残しておく。タイトルの法則性がここまででいったん終わっているので、ここから解決編が始まるのかな、という感じ。
以下、ネタバレあり。ネタバレしかない。既読者向けです。
私は第十三章までしか読んでないですが、私の推理が当たっていた場合は結末で全部ネタバレになっています。注意!!!!!!!!
謎(箇条書き)
事件編
・誰が犯人なのか?
・時計に細工はあったのか?
・こずえを死体に導いたのは何故か?
・被害者たちが死の直前に気づいたものはなにか?
早紀子の回想において、永遠は何にショックを受けたのか?
内海は何に気づいたのか?
河原崎は誰の顔を見たのか?
こずえが納骨堂で疑問に思ったのは何か?
小早川がテーブルで見たものは?
館編
・詩は何を意味しているのか?
・気まぐれ時計の意味は?
・͡古峨由季弥は姉の死を知っているのか?
・時計塔のガラスの意味は?
・紙片の意味は? 「彼ら」は本当に子供たち?
・誰が犯人なのか?
被害者視点の描写は基本的に正しいものと考える。
基本的に、というのは、館シリーズ定番の叙述トリックが仕掛けられている可能性は否めないから。
しかしながら、被害者として描かれた登場人物は、共犯でない限りは、犯人ではないと考えておく。「うみねこのなく頃に」の幻想描写みたいなものはないと仮定しておくってことです。
よって、小早川・江南・内海・瓜生・早紀子・河原崎・こずえ・渡辺は犯人候補からひとまず除外する。
容疑者1 古峨由季弥
昼過ぎに起きてきて、毎日塔時計のねじを巻くのが日課。
毎晩、十時半に伊波が由季弥のところへ夜食を持っていくことになっている。
その際、薬も飲む。
8/1 午後10:30 伊波が夜食を持っていく。おそらく在室。
8/1 午前1:30すぎ 部屋にいない
8/1 午後7:10~10:00まで鹿谷・福西・由季弥と会食。
(おそらく)瓜生の推理における犯人。
瓜生の推理。
・カメラを壊したのは、旧館にいないはずの人間が映っていたから。
・瓜生は永遠と由季弥の写真を握りしめていた。
→ 犯人は由季弥
振り子の部屋が納骨堂につながっている以上、由季弥にも犯行は可能。
しかしながら、8/1午前0:00~1:00あたりにこずえが犯人に遭遇しており、またその後午前1:30以降に部屋にいないことを確認されているのは犯人としては、露骨。
また、瓜生から疑われている点でもやはり露骨。
今のところメタな要素だが、犯人候補としては外したくなる気もする。
容疑者2 野々宮泰斉
7/31 午後10:30~11:00の間に鹿谷・福西と接触。
8/1 伊波紗世子によると、朝から一度も顔を見ていない。
正直、事件においては存在感がなさすぎてよくわからない。
犯行は可能。
予言を残した点ではかなり重要。
容疑者3 伊波紗世子
7/31 午後9:00~10:30 午後11:00~翌8/1午前2:30すぎ?まで 鹿谷・福西と同行。
8/1 正午12:00頃~午後2:00すぎまで 鹿谷・福西と同行。
8/1 午後7:10~10:00まで 鹿谷・福西・由季弥と会食。
8/1 午後10:30~翌8/2午前3:00まで 鹿谷・福西と同行。
犯行時刻となる8/1午前0:00~1:00、8/1正午12:30~午後1:30、8/1午後11:00~翌8/2午前2:40すべてにアリバイがある。
それゆえ、とても怪しい。
容疑者4 福西涼太
7/31 午後9:00~翌8/1午前2:30すぎ?まで 鹿谷と同行。伊波は途中一度抜ける。
8/1 正午12:00頃~午後2:00すぎまで 鹿谷・伊波と同行。
8/1 午後2:00~7:10まで 鹿谷と同行
8/1 午後7:10~10:00まで 鹿谷・伊波・由季弥と会食。
8/1 午後10:00~10:30まで 鹿谷と同席
8/1 午後10:30~翌8/2午前3:00まで 鹿谷・伊波と同行。
一応まとめた。
容疑者5 鹿谷門実
上にだいたい同じ。
容疑者6 光明寺美琴
(存在を忘れてたので、後から書き足しています)
犯人である可能性は低いというか、この人が犯人だったらなんでもできちゃう。
ずっと行方不明だし。しかしながら、光明寺美琴が生きているにしても死んでいるにしても、彼女の居所は問題となる。
また、今後、作中人物への疑いを示す際には、「容疑者1」「容疑者3」のような呼称を使う。(単に時系列の整理などでは名前を使う)
Googleの検索画面等で表示されてネタバレになることを防ぐためだ。
・時計に細工はあったのか?
あったものと考える。
根拠1 外界と旧館における差異
外界の時間が提示されるときは、「時刻は午前零時。七月から八月へと月が替わる、境目の一瞬が過ぎたころであった(p.204)」のように時間そのものが描写される
一方、旧館の時間が提示されるときは、「そうしてやがて、館の時計が一斉に午後十時の鐘を打った頃(p.212)」のようにあくまで時計に依存した時間の描写がなされている。
根拠2 雨と雷鳴
雨と雷鳴の描写は外界と旧館の時間の違いを把握するための手がかりとして提示されているのではないか。(それ根拠か?)
(ちなみに、明示的に時間のズレを雷鳴が示しているということも多分ない。雷鳴が鳴っていたタイミング、小降りになったタイミングが正確には特定できないので)
(ただし、外界で正午12:00~午後1:00の間に雷鳴があるような激しい雨から一時的に小降りになった描写が、旧館においては見られないというのも事実である)
時計が正しければ、容疑者3に犯行は不可能。しかし、時計に細工があれば、容疑者3にも犯行は可能だった可能性も出てくる。
問題は江南の懐中時計。これによって、作中で時計がズレている可能性がいったん否定されているところ。江南が懐中時計を隠し持っていたので、彼が眠っている間に旧館すべての時計をいじくって時間をズラすということはできない。
→もともと「時計館」の時間がおかしかったとすれば、大きな問題はない。
→ 時計館の時計塔は、実際とは異なる時間を刻んでいたため「気まぐれ時計」(p.332)と呼ばれていた。つまり、旧館の時間がおかしいとして、それは事件のための細工ではなく、旧館そのものにもともと細工がなされていた。
旧館において、何故、どのくらい時間がズレていたかが鍵となる。
また時間がズレていたとすれば、二つの疑問が解消される。
早紀子の回想において、永遠は何にショックを受けたのか?
→「今日はね……」「今日は……」と告げた後にショックを受けている。
→永遠が時計館において過ごした時間と外界の時間が食い違っていたから。
こずれが死の直前に何に驚いていたのか?
→時計館(旧館)と外界では時間の流れが違うため、「夜だと思っていたのに外は朝だった」から。だから、「自分の気が狂ってしまったのではないかとさえ、一瞬本気で疑った(p.444)」。
・何故、時計に仕掛けがしてあったのか?
時計館は永遠が16歳で結婚するという夢を達成するためにつくった館だから
・永遠は、16歳の誕生日の前に死ぬと予言されている。
つまり、永遠は、16歳の誕生日を迎える前に、16歳の誕生日を迎える必要がある。
・時計館の時計は外の世界とは異なる時間を刻む。
永遠が16歳になる前に結婚すれば、永遠は夢を叶えられる。
永遠が実年齢で15歳のうちに、彼女の認識において16歳になる必要がある。
・「4人の子供たち」の罪は、永遠に本当の日付を教えてしまったこと
永遠の自殺の理由は、時計館の真実を知ってしまったこと。
・時計はどのくらいズレているのか?
上の目的が正しければ、少なくとも旧館と外界では、最低「一日」以上時間がズレている必要がある。
しかし、誕生日を迎えずにという曖昧な予言に対して、一日ではあまりに余裕がない。また、誕生日の季節をごまかせないとすれば、約「一年」のズレが必要かもしれない。
時計館に住み始めたのが1974年の夏。
永遠の実際の16歳の誕生日が1980年の夏。
→永遠の誕生日を1979年の夏に迎えるためには、5年で1年程度時計館の時間が早く進む必要がある。
時計館の時計が5年で進む時間を仮に6とすると、時計の速度=6(時計館の年)/5(外界の年)=1.2となる。
→つまり、時計館の時間は、1.2倍速で進んでいることになる。
「一年」のズレ、つまり永遠の15歳の誕生日に16歳の誕生日を迎えるという計算は仮定にすぎないが、この仮定においては、古峨倫典の残した詩に登場する年代1992年が説明できる。
1992年8月5日というのは、作中の時間1989年から見ると、一見未来となる。
が、時計館の時間が永遠の死後も1.2倍速で進み続けているとすれば、外界の1974年→1989年の15年は、時計館の1974年→1992年の18年に相当する。(15年×1.2=18)
よって、時計館の時間は1.2倍速で動いているものと考えられる。
なお、細かい日付を考慮していないため、その辺は雑な計算になっている。
・外の世界と旧館の時間の対応
外界/旧館7/30午後6:00
外界7/30午前0::00 旧館7/30午前1:12
外界7/31正午12:00 旧館7/31午後2:24
外界7/31午後6:00 旧館7/31午後10:48
外界8/1午前0:00 旧館8/1午前6:00
外界8/1午前6:00 旧館8/1午後1:12
外界8/1正午0:00 旧館8/1午後8:24
外界8/1午後6:00 旧館8/2午前3:36
7/31午前0:00→7/31→正午
(実際には、日付にもズレが存在していたと思われるが、中に入った人たちにそれは認識できない)
犯行時刻は、旧館8/1午前0:00~1:00、旧館8/1正午12:30~午後1:30、旧館8/1午後11:00~翌8/2午前2:40あたり。
→旧館8/1午前0:00~1:00の犯行は、現実時間では7/31午後7:00~8:00くらいの犯行となる。伊波が鹿谷・福西と伊波が合流したのは午後9:00。
→旧館8/1正午12:30~午後1:30の犯行は、外界では8/1午前6:00頃のこととなる。外界では早朝になっている。
→旧館8/1午後11:00~翌8/2午前2:40の犯行は、外界8/1午後2:00すぎから午後5:00くらいまでの間。ちょうど、鹿谷・福西が時計館から外出していた時間。
ここまでの推理から、容疑者4、容疑者5は犯人ではないものと考えられる。
一方で容疑者3のアリバイがすべて崩れるため、容疑者1、容疑者2、容疑者3、容疑者6の誰にでも犯行が可能であると考えられる。
メタ的に考えると、アリバイが崩れた容疑者3が一番怪しいのだが、現段階では容疑者1、容疑者2を排除する理由がないというのが問題。
この時点では、旧館と外界の時間のズレを犯人が利用する気だったのか、勝手に読者が踊らされているだけなのかわからないのだ。
依然として残る謎(箇条書き)
事件編
・誰が犯人なのか?
・時計に細工はあったのか?
・こずえを死体に導いたのは何故か?
・被害者たちが死の直前に気づいたものはなにか?
早紀子の回想において、永遠は何にショックを受けたのか?
内海は何に気づいたのか?
河原崎は誰の顔を見たのか?
こずえが納骨堂で疑問に思ったのは何か?
小早川がテーブルで見たものは?
館編
・詩は何を意味しているのか? △
・気まぐれ時計の意味は?
・͡古峨由季弥は姉の死を知っているのか?
・時計塔のガラスの意味は?
・紙片の意味は? 「彼ら」は本当に子供たち?
・詩は何を意味しているのか? 館の仕掛けは何か?
1992年については前述の通り。おそらく1992年8月5日=1989年8月2日
「聖堂に七色の光射し」は時計塔のガラスと関係している。
「時間は果て」は、由季弥が毎日塔時計のねじを巻いているので、一定のポイント(ポイント?)がたまると、仕掛けが動き出すということではないか。
後半部、「沈黙」については作中の通りだが、「沈黙の女神の歌声」は推理を放棄する。わからない。
・犯人がこずえに目撃され、死体に導いたのは何故か?
容疑者3によるアリバイ工作、というのが素朴に思いつく理由だが、これには問題が三つある。
一つ目、目撃証言を話す人間が生き残っていなければ、アリバイは成立しない。
→容疑者3の(崩された)アリバイは、読者の視点から整理すると存在するアリバイだが、犯人の目的が全滅だった場合、アリバイは成立しない。江南のようにメモをつける人間がいるとは限らない。メモがあっても、犯人による偽証の可能性が残る。
→日付まではわからないが、凶器として使われた時計が殺害時刻を示している。
→また、第十三章において「呆気なくそこで意識を失ってしまったのは、しかし江南にとって、実に幸運なことだったのかもしれない」と露骨な生存フラグが立っているが、これがミスリードである可能性もある。
→すなわち、江南は証言者として残されたのであって、意識を失ったことによって、犯人に殺されなかったわけではないという可能性である。
二つ目、時計館の時計が外界とズレていたという物証が残っていたのでは、証言があっても証言にならない。
→第十三章最後のモノローグ、「午前二時四十分。まだ十分に時間はあった。(p.474)」から察するに、一見被害者が全滅しているにも拘わらず、犯人は作業時間を計算している。
→旧館内部のすべての時計を破壊することによって旧館の時計が正しい時刻を示していなかったことは偽装可能。この偽装のために、犯人は時計を凶器に選んでいたのかもしれない。
→p.468で江南がポケットから落とした懐中時計にため息をついたという描写があるが、これは「江南の懐中時計を破壊し損ねてトリックが見破られる」可能性が残っていたことに気づき、またその可能性が現実にならなかったことに安堵したため息。
三つ目、アリバイを証言することになる鹿谷・福西の来訪は予定になかったこと。
→田所や野々宮を利用する予定であって、鹿谷・福西が証言者になる必要はなかった。
一応、やや苦しいが3つの問題を解決することができた。
また、この推理が正しければ、やはり犯人は容疑者3になる。
容疑者1、容疑者2、容疑者3、容疑者6にはアリバイが存在せず、アリバイを工作する意味がないからである。
この推理を裏付ける一つの推理として「こずえが何故殺されたのか?」という疑問がある。こずえは、永遠の死に関わった「四人の子供たち」ではない。
にも拘わらず彼女が殺害されたのは何故か?
これは、「こずえが旧館と外界における時間の流れが違うことに気づいてしまったから」だと考えると、一応説明がつけられる。
この場合、こずえに関しても、余計なことに気づかない限りただ眠らせておいて、証言者として生き残らせる算段だったのかもしれない。
実際、犯人は一度はこずえと顔を合わせながら、そこでは殺意を向けなかった。
この推理が正しければ、犯人が旧館と外界の刻む時間の違いを活かしたアリバイ工作を行おうとしていたということが確定的となる。
「不可能ではない」という一点においては、容疑者1、容疑者2、容疑者6であっても犯行が可能だが、アリバイ工作を行っていたのは容疑者3のみである。
これは単にアリバイが崩れたから怪しいということではなく、アリバイ工作をする気がないなら、行動に説明がないという推理であって、最初になんとなく怪しいと思ったメタ推理とはちょっと違う。
最終推理
未だわかっていない点も多々あるが、私の推理としては容疑者3が犯人ということになる。以下に根拠を再提示する。
・外界と旧館では、時間の流れが異なるため、犯行は容疑者1~3、容疑者6の誰にでも可能だった。
・犯人がこずえと遭遇し、死体を発見するように誘導したのは、アリバイ工作をするためだった。犯人は、旧館の時計を利用してアリバイが得られる人間と考えられる。こずえは証言者となる必要があるため、本来は殺害する対象に含まれていなかった。
・しかしながら、こずえが旧館の外に出てしまい、時計に関するトリックが見抜かれてしまったため、こずえは証言者になることができなくなった。
・よって、犯人はこずえを殺害し、代わりに江南を証言者にすることをもくろんだ。
・アリバイ工作を仕掛けたのはアリバイがあったから。容疑者3以外にアリバイはなく、アリバイ工作を仕掛ける必然性はない。
・よって、犯人は、上の容疑者一覧で示した、容疑者3ということになる。
未解決の謎
・被害者たちが死の直前に気づいたものはなにか?
内海は何に気づいたのか?
→時計の仕掛けに関する写真もしくは瓜生の推理と同じ館にいないはずの人間
河原崎は誰の顔を見たのか?
→館にいないはずの人間を見て「どうして」と言った。
小早川がテーブルで見たものは?
→時計の細工は特注品とも考えられるが、案外磁石とかで調整していたのかもしれない。
ここまでは良い(本当か?)が、この推理においては、一つ重大な謎が残されている。
光明寺美琴の処遇が全然わかっていないのである。
犯人がアリバイ工作をする意図があったという点で、私の推理においては、容疑者から除外できた。だが、彼女が生きているのか死んでいるのか。死んでいるとすれば、死体がどこに隠されたのかは重大な謎であるが、私の推理はそこには及ばなかった。
さて、そんなこんなで一応犯人は宣言したので、解決編を読もうと思う。
今回、ちゃんと推理をしてみて、「推理小説をちゃんと推理すること」についていろいろ考えたが、それは感想として後で書こうと思う。