日記:「エターナル・サンシャイン」
完璧。
恋人と喧嘩別れをした男が、恋人が彼に関する記憶を消したことを知る。
そして、彼は自分も恋人に関する記憶を消すことにする。
そのために行われる施術の最中、彼は自身の記憶をめぐる。中にはいい思い出もあった。そのうち、彼は記憶を失うことに抵抗を始める。
作中の大半が記憶のなかをめぐる、手術の最中の描写で占められている。
かなり映像が凝っている。夢の中のような脈絡のなさ、現実ではありえないような状況の混濁がそのまま映像として映し出される。
家のベッドで横になっていたはずなのに、目覚めるとベッドごと歩道に移動しているとか。家の中なのに雨が降り出すとか。「忘れる」とともに、その場面から消えていく恋人や、崩れていく家とか。
恋愛に関する要素に一切興味がなくても、映像だけで楽しめると思う。
ただ技術がいいとかそういう話ではなく、夢特有の混乱や、気持ちと世界がリンクしているかのような不思議な感覚がたっぷり味わえる。これは技術の問題以上に、センスの問題だ。
記憶のなかのシーンだけでなく、下にリンクを貼ったサウンドトラックのジャケットを飾る氷上で寝そべるシーンも美しい。
ここから先、ネタバレ。
- アーティスト: サントラ,ドン・ネルソン,ウィロウズ,LISA,E.L.O.,ザ・ポリフォニック・スプリー,ラタ・マンゲシュカル,ベック,ジョン・ブリオン
- 出版社/メーカー: カッティング・エッジ
- 発売日: 2005/03/09
- メディア: CD
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映像がよく、構成がよく、そして最後の最後まで心配にはなったものの、結論の出し方もいい。
二人は運命だったんだ、みたいなオチだったら最悪だな、と思ったけどそうじゃなかった。
運命みたいな面はある。お互いに記憶を消して、それでもまた巡り合えた。それは素敵な偶然かもしれない。だが、素敵だからといって、同じことを繰り返しては意味がない。メアリーのように。
もちろんお互いのすれ違いの原因が明確に解決されたわけではないし、一緒に生きていこうとするとやっぱりうまくいくかはわからないけど、お互いにもうちょっと向き合えるんじゃないかな、と思えるところでエンディング。よい。
二人の出会い(?)から始まって、涙を流すジョエルの帰路をOPにする落差が上手だ。
ジョエルを見ていると「うわー」と声を漏らしそうになるところが結構あって、例えば「恋人の記憶から自分が消されたから自分も相手を消す」なんていうのはその至りだ。別に、いろいろ考えたうえで記憶を消すべきだと考えたならいい。でも作中のジョエルがやっているのは当てつけだ。「君が先にやった」と記憶の中のクレメンタインに声をかけるが、自分のことを忘れているクレメンタインに当てつけが届くはずもないし、そもそもジョエルもクレメンタインのことを忘れてしまう。
うわー。
究極的に、ジョエルの記憶をめぐる逃避行は独り相撲でしかない。痛々しい男の妄想とさえ言えるのかもしれない。それでも見ていられるのは上で書いた映像表現の面白さのおかげでもあるし、最初恋人に罵声を浴びせていた彼が素直になっていく、自分の気持ちに向き合っていくという側面があるからだとも思う。
人の手術中にマリファナを吸うな。
と言いつつ、あそこらへんのシーンには、ジョエルの哀愁を強調する作用があるっぽい。
記憶を失うまでの物語と、記憶を失ってからの物語は切り離して考えたほうがいい気がする。
構成としては綺麗に噛み合っているけど、記憶を失うまでの彼はやっぱり記憶を失ってからの彼とは連続していないんじゃないかな、とか。
(夢のなかで聞いた言葉が、二人を再会させるきっかけになっているけど。)
忘れていた過去と向き合いながら、同じ失敗をするかもしれないと言いながら、どうするか。
私はこういう作品が好きだなぁ。