日記:「4分間のピアニスト」

ピアニストの話が見たいとか、百合系の文脈で紹介されているとかで気になっていた。

※百合系の文脈

レズビアン映画 洋画編(2017年更新) - 奇妙な店長の戯言部屋

映画『4分間のピアニスト』感想 - 石壁に百合の花咲く

極めつけは、どこかの紹介文に書いてあった「ラスト4分間の衝撃的な演奏」みたいな文句。それで、見なくちゃ!という気分になった。

天才だが囚人であるピアニストと、教師が物語の中心になっている。

彼女が劇中で最初に演奏するシーンは、教師と同じ心境・感動が共有できると思う。圧巻のシーン。ラスト4分間の演奏より、こっちや、手錠をしたままピアノを弾くシーンのほうが好きかもしれない。

 

演奏の話はうまく書けないので離れると、教師クリューガーと囚人ジェニーの力関係みたいなものがいい。どちらかといえば粗暴にふるまうジェニーが、音楽という文脈のなかでクリューガーにやり込められたり、逆に、やはりそれで制御しきれない面があったり。また、音楽という面ですらクリューガーは優位に立っているわけではなく、才能に価値を見出しているからこその力関係でもある。緊張がある。

ある種の妨害役として看守が出てくるが、これも簡単な悪役ではない。教師、天才ピアニストの囚人、看守、それを戯画化しすぎず、それぞれのバックボーンをふまえて描き出しているのがいい。

 前回、セブンの感想を無駄に長く書いてしまって力尽き気味かもしれない……。

おもしろかった。

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詩:ぜんぶ私でした

ぜんぶ私でした。

ぐつぐつと煮えたぎる日光をいとおしいと感じながら走り回っていたのも、撫でるように包んでくれるうららかな陽光をうとましいと感じながら逃げ回っていたのも、ぜんぶ私でした。雨が降っているからという理由で、約束をすべて裏切って、飛び乗った電車で海まで行って帰ってこなかったのも私です。傘を持っていない少年に傘を差しだして、自分はずぶぬれになって帰ったのも私です。

友達の誕生日プレゼントを選ぶために、ひねもすショッピングモールで迷っていたのも私です。友達がもらった賞状を、第三準備室に隠したのも私です。私はあなたが好きでした。私はあなたが嫌いでした。あなたが貸してくれたCDの、二番目に入っていた静かな音楽は、今でもたまに聞くことがあります。

 

 

空をゆく鳥の群れに訳もなく喜ぶのも私でしょう。

同じ景色に、何も思わずただ目的地を目指すのも私でしょう。

どちらかがより中心的ということもなく、ただ頻度でそれに近しい結論を出すばかり。

私とあなたは明確に違うけど、あなたに比べて私が優等であるとか、私に比べてあなたが優等であるとか、そういう話は熱を出した日曜日の粉薬のように苦い。

月食は見ましたか。

あんなものつまらないと思うあなたも、それなのに日常の三日月が輝いて見えるあなたも、あなたなんだろうと思います。

先週のフリーマーケットで、薄汚れたボロボロの私を見かけました。

本棚の隅っこに飾るくらいならちょうどよいと買いました。

日記:忘れていく

どんな記憶が自分のなかに残っているかはわからないもので、小学生のときに熱心に読んでいたダレン・シャンのことはすっかり忘れているのに、当時人気だったから抑えておこう程度に思っていたハリー・ポッターのことはしっかり覚えている。

 

ハリー・ポッターは各巻のタイトルをすらすらいえる。賢者の石、秘密の部屋、アズカバンの囚人、炎のゴブレット、不死鳥の騎士団、謎のプリンス(半純血のプリンス)、死の秘宝。

ここだけの話、死の秘宝は小説で読んだきりで、映画はまだ見ていない。

ダレン・シャンはかなりおぼつかない。この前試しに思い起こしてみたら、奇怪なサーカス、若きバンパイア、バンパイアクリスマスあたりまではしっかり覚えているのだけど、そこから先があやふやだった。あやふやなので間違いを含んでいるが、バンパイアの試練、バンパイアマウンテン、バンパイアハンター、黄昏のバンパイア、真夜中の同志、夜明けの覇者、精霊の湖、11巻に至っては検討もつかず、運命の息子。

まず、4巻と5巻の順番が逆で、バンパイアマウンテン→バンパイアの試練という時系列である。6巻はバンパイアの運命で、7巻が黄昏のハンターだ。上で思い起こしているタイトルは黄昏のハンターが二つの分割されているらしい。8巻、9巻、10巻、12巻は正しい。11巻は闇の帝王。なのだが、6巻と11巻については答えを見てもピンと来ない。

 

これも当時読んでいたファンタジー小説のセブンスタワーについては、一巻のタイトルさえ思い浮かばなかった。

忘れていく。

日記:「セブン」

時系列で言うと、「プラダを着た悪魔」の翌日に「セブン」を見た。

2本合わせて、しばらく映画は見なくていいかなと思うくらいには充実した時間だった。

 

セブンについて簡潔に説明するなら、七つの大罪に見立てた猟奇的連続殺意人に挑む二人の刑事の話だ。

と言えばチープにも聞こえるが、各事件現場の描写はどこか芸術的ですらある。

執拗とも言えるほど雰囲気のあるカット、洗練された構図が、「七つの大罪に見立てた猟奇的連続殺人」に対して強い説得力を与えている。殺され方、ホラー作品かのような現場の描写にインパクトのある第一の事件、点と点がつながってゆくきっかけとなる第二の事件……単に事件が何度も起こるだけでなく、物語の構成としてそれぞれが異なった意味合いを持っているので、ぞくぞくしながら展開にのめりこんでゆけると思う。

 

セブンはいろんな風に楽しめる作品だ。芸術的とも言える狂気の殺人の魅力を楽しむカルトムービーとして、老いた刑事が若い刑事を認める過程を楽しむ刑事ものとして、もしくはアクションとダーティさの入り混じるハードボイルドかつスリリングな展開が続くタイプの刑事ものとして、純粋な映像としての魅力を楽しむ通好みの映画として、そして物語が投げかける問いを読み解く文学的な作品として。

 

全体の感想としては、やっぱりその洗練された映像が凄い。画づくりについて語る言葉を持っていないので具体的な話はできないけど、偏執的なまでに、という修飾が似合う作品ではないだろうか。有名なあのOPも、不気味ながらかっこよくて、当時カルト的な人気を博したことが一目でわかる。

あと見てほしいところとして、ラストシーンのブラッド・ピットの演技がある。過剰っぽいというか、わざとらしさがないとは言えないんだけど、それでも表情だけで物語をつくっているあのシーンはほんっとうに素晴らしいので見てほしい。

いい映画体験ができた、と自信をもって言える。

さすがフィンチャー!(フィンチャーの作品を見たのは初めてです)

 ここから先はネタバレ気味です。

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日記:「プラダを着た悪魔」

元気になる映画、とおっしゃる方がいて、半信半疑だったけど嘘じゃなかった。

凄いけどやばい上司の下で働くことになった主人公が、ひどい目に遭いつつ頑張る話。

「ひどい目に遭いつつ」の描き方が最初こそ長い尺をとるのだけど、だんだん映像としてリズムがよくなっていったり、わりと早めに主人公がやばい上司の上をいく対応ができるようになったりで、そこまで苦しくない。

むしろどんどん変わっていく主人公に小気味よさすら覚える。

タイトルからして、もっとドロドロで陰謀でぐちゃぐちゃな話かと思っていた。

仕事にすべてをささげるくらいの勢いにどうかと思うところはあれど、とても真摯に仕事に向き合っていて、悪魔じみた陰謀で同僚を陥れる!みたいな上司じゃなかったので安心。

 

私はファッションのよくわからない人間なんですが、ファッションとしてダメな服を意図に反して使ってしまったら台無しな映画なので、その方面の努力はすごいんだろうなぁと。

 

金曜日の夜とかにみたい映画だ。

この先ネタバレ。

 

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日記:「はじまりのうた」

同じ演奏が2回異なる形で描かれる作品が好きだ。*1

いろいろな形がある。最初は楽しかったはずの演奏が、二度目は切ない。逆に、かなしたかったはずの演奏が、どこか楽しいものとして再演される。

この映画におけるその演出は、白眉だと思う。

皆様は白眉という言葉を普段使うだろうか。私は使わない。つまりそれだけ強調したいということだ。

詳しくは語らない。見て、感激してほしい。

 

原題はBegin again。ただのはじまりではなくて、もう一度。

 タイトルの通り、かつて優秀だったプロデューサーとニューヨークから地元に帰ろうとするシンガーソングライター・グレタの出会いから物語は始まる。

落ち目のプロデューサー・ダンはグレタに才能を見出すが、彼は会社を首になっており、彼女の作品を世に出すことはできない。会社との交渉にも、形になったものが必要だという。そこで彼女たちは、予算がなくてスタジオを借りられないなら、と奇抜な方法で収録を開始する。

ここからはネタバレありつつ。

素敵な曲がたくさん出てくるけど、しゆはComing Up Rosesがいちばん好きだったな。

 

*1:映画大好きポンポさん【創作漫画】「映画大好きポンポさん」漫画/人間プラモ [pixiv]のマイスターとか、実際に見てみたいよね

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日記:「パターソン」

パターソンに住むバスドライバーのパターソンという男のお話。

彼の趣味は詩をつくること。

何気ないようでたくさんのことに溢れている彼の日常とか、詩作とか、そういうのがメインの映画です。

一番いいな、と思ったところは、少しずつ詩ができあがっていく様子がちょっとリアルに描かれているところ。

ある瞬間にぱっとできあがるものではなくて、先が思いつかなくなって止めたり、時間をおいたら続きが思いついたり、そういう思索の過程が「わかる~」ってなる。これは詩だけじゃなくて、小説を書いたり、漫画を描いたり、そういう創作っぽいことに限らず企画をつくったりする人にも通ずる感覚だと思う。漫画家漫画とかだと、こういうことをふまえた上で大げさに演出されちゃうんだけど、いい意味で淡々としているのが素敵だった。

詩の内容もいい。

 

上で書いたように、劇的なことはあまりない映画なんだけど、それでもパターソンが何気なく出会う詩を書く人とのやりとりがエモーショナルだったりして、そういう成分を求めている人も楽しめると思う。

ここから踏み込んで書いていきます。ネタバレもまぁあるかもしれないけど、何に踏み込んでいるかと言えば、自分の内心に踏み込んでいるだけです。

paterson-movie.com

 

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