日記:「六の宮の姫君」

太宰治の辞書』の解説で米澤穂信が語っていた内容によると、彼はこの作品に影響を受けてミステリ作家になることを決めたらしい。どういうジャンルで小説か迷っていたとき、この作品を読んでミステリが描けるものの広さというものを感じたとかなんとか。 

日記:「太宰治の辞書」 - しゆろぐ

簡単なあらすじを書く。卒業論文芥川龍之介を扱うことになった主人公が、ひょんなことから生前の芥川龍之介の謎めいた言葉について教わることになる。その「謎」を解き明かすため、書簡や著作をめぐってめくるめく文学の冒険が始まる、みたいな感じ。主にとりあげられるのは表題にもなっている「六の宮の姫君」だが、有名な「羅生門」の結末をめぐる話もあるし、何より芥川龍之介とほかの作家の交流の話が面白い。

 ミステリ小説にせよ、卒業論文にせよ、謎解きには二つの段階があると思う。

一つは調査。調べ物の世界だ。そしてもう一つは推理。調べもので見つかった材料をもとに、理屈をつけていく作業だ。この作品は、調査の面白さ、つながりが見えなかった材料どうしのつながりがどんどん見えてくることの面白さを生き生きと描いている。「証拠がそろってから推理ですべての謎を解く」みたいなミステリともちょっと違うけれど、「謎解き」の懐の広さをありありと見せつけた作品になっている。 

本の話だ。しかし読後感としては、壮大な冒険を終えたような感覚のほうが強かった。作家と文学と謎を巡る冒険に興味のある方はぜひ。

六の宮の姫君 (創元推理文庫)

六の宮の姫君 (創元推理文庫)