日記:「螺旋階段のアリス」

この作品がテーマにするのは「日常の謎」。

サラリーマンをやめて私立探偵になった仁木順平と、彼のもとを訪れて助手として働くことにした探偵志望の市村安梨沙。この設定だけでも惹かれるものがあります。

二人の事務所に舞い込んでくる謎は、仁木が憧れていたハードボイルドなものでもなく、かといって安梨沙が望むような優しいだけのものでもない。ちょっぴり苦く、でもやっぱり優しい、そんな謎の数々。というわけで、この作品は連作短編集です。

この作品の好きなところは、謎に対する苦みを含んだ答えを見せながらも、最後には優しさで包みあげる手腕です。そういう点で、やはり私は「中庭のアリス」と「最上階のアリス」が好きです。

「中庭のアリス」は探偵が務める最もオーソドックスにして堅実な仕事……犬探しを扱った作品です。死んだ夫が30年前にプレゼントしてくれた犬が逃げ出したということで、ある老婆から犬探しを頼まれた二人。しかし、なんと「そんな犬はいない」という情報をつかむことになります。それもそのはず、30年前にプレゼントされた犬が、今も生きているはずがありません。はてさて、犬は老婆が見ている幻にすぎないのでしょうか。

「最上階のアリス」のあらすじは面倒なので書きませんが、二人がそれぞれに調査の結果を報告するラストシーンの美しさは、仁木と安梨沙のキャラクターが綺麗に出ていて好きです。苦みと優しさが詰まった謎の答えも、うまく言えない気持ちにさせられます。

ナゾトキと後味の悪い結末、と言うとさまざまな作品がありますが、苦みがありつつも終始やさしいバランス感覚が癖になる一品でした。

新装版 螺旋階段のアリス (文春文庫)

新装版 螺旋階段のアリス (文春文庫)