小説:理想の旅

私にとって理想の旅というのは、きっと旅未満の何かだ。

通学中の電車で、学校に行きたくないなと思って、いつも降りる駅を乗り過ごす。しばらく電車の窓越しの風景を眺めて、よく知らない駅に「名前がいいな」というそんなきっかけで降り立つ。定期が使えないからちょっと面倒かもしれないけど、それでいい。

(電車通学だった時期なんて一度もない。)

降り立った駅からは、なんと海が見える。白い看板に、真っ黒いペンキに古ぼけた字で、さっきいいなとおもった名前がひらがなで書いてある。看板はひとつしかない。ちいさなちいさな駅だ。駅員さんがいるのは小屋みたいな立方体の駅舎で、待合室も兼ねている。椅子にはおばあちゃんの家で見かけるような手作りの敷物が敷いてあって、なんとなくほほえましい気持ちになる。「××駅来場記念ノート」みたいなよくわからない名前のノートが置いてあって、なかには子供の落書きや、出張に来たという大人の他愛もない報告が載っている。

ノートのページをめくっていくと、「学校をさぼって知らないここに来ました。どこか遠くに行きたくて」という記名をしていない誰かの報告が書いてある。

これは私だ、と思う。もちろん違う人で、でも誰かがまったく同じように同じことをしていて、そういうつながりにあたたかさを感じる。2年前の冬。字が下手な人が、走り書きをどうにかそれっぽく見せて、取り繕っているようなそんな字で。

そんな旅がしたい。

メモ:決意と不安定さと飛び石と (アニメやがて君になる6話によせて)

飛び石とは、石を飛び飛びに並べてつくった簡単な橋のようなものを指す。

f:id:siy_lang:20181110094946j:plain

(画像はフリー素材です)

 

庭園の道も飛び石と呼ぶことがあるが、ここで注目するのは川を渡るための橋としての飛び石である。かなり主観的な話だが、川を横切る飛び石を渡ったり、そこでやりとりをするシーンは印象に残ることが多い。「たまこラブストーリー」や「月がきれい」なんかが好例だ。

アニメ「やがて君になる」6話においても、作中において大切なやりとりを行うシーンが、飛び石の上で行われていた。

 

川を横切る飛び石は、歩くに際してすこしだけ不安定な足場なのだと思う。

と同時に、こちら側とあちら側をつなぐものでもある。

人間と人間の関係を描くには、わかりやすい象徴になる。

 

そんなこんなで、「たまこラブストーリー」「月がきれい」という飛び石でのやりとりを扱った先行作品の内容に触れた上で、「やがて君になる」の飛び石シーンについて簡単に紹介してみたい。ちなみに引用の相場がよくわかってなくて本編の画像は一切ない。

各作品の内容には触れすぎないようにしますが、ある程度それまでの経緯を説明することになるのでネタバレを警戒する人は自衛してください。

やがて君になる」に関しては漫画2巻orアニメ6話までを履修していることが前提です。

たまこラブストーリー」については映画の中盤の内容ですが、「たまこまーけっと」を前提にした映画版になっています。「月がきれい」については最終話の内容になります。「やがて君になる」については、原作10話アニメ6話の内容になります。

「月がきれい」Blu-ray Disc BOX(初回生産限定版)

「月がきれい」Blu-ray Disc BOX(初回生産限定版)

 

 

 

続きを読む

メモ:「借りてきたX」構文?(Vtuberを例に)

借りてきた猫は本来、「その日、太郎は借りてきた猫のようだった」のように、特定の人物が普段とは異なった形で非常におとなしくなっている状態を「借りてきた猫」にたとえて評する表現となっている。

しかしながら、「借りてきたX」のX部分に猫以外の生物を入れる表現をすこし前から目にする機会があったので紹介してみたい。

ただし、厳密な検証とかはしていない。ざっと見ただけ。

 

続きを読む

日記:アニメ「やがて君になる」3話

見ました(遅い)。

3話は原作でいう4話5話の内容ですが、原作5話の冒頭をOP前に持ってきたり、原作4話のラストをエンディングに持ってきたりで、「アニメ3話」としての再構成が丁寧ですね。

 

日記:アニメ「やがて君になる」1話 - しゆろぐ

日記:アニメ「やがて君になる」2話 - しゆろぐ

 

追加とか演出とかで気になるところはこんなところ。

・間接キスのシーンで小糸侑がネコに目を奪われるシーンの追加。

意識しまくってる七海燈子に対して小糸が何も気にしていないのがわかる。

・朱里がフられた話をするシーンで、アイスクリームが溶ける演出。

ちょうど直前まで顔が表示されてるし、形になってない涙を描いてるのかな。

・選挙結果の掲示のシーンで、小糸がその場から立ち去ろうとする描写が追加

深い意味があるというより、ほかのクラスメイト?とか生徒会メンバー?とかがいる状況での小糸のスタンスというか距離感の保ち方があらわれているかも。

 

あと、全体的に小糸の呆れ顔が真顔になってるシーンが多かったかもしれません。

 

作品の中の前提条件「小糸侑は今のところ人を特別に見ない」「七海燈子は自分を特別に見ない小糸侑を求めている」がとうとう提示された回ですね。

人を好きになれないことを「私は星に届かない(1話タイトル)」と表現される小糸侑が家庭用プラネタリウムをプレゼントされ、自分も星に届くのだろうかと考える回でもある。

 

アニメを見て改めて思ったこと。

朱里を慰めようとこよみが「好きって思われ続けてたらその気になるもんじゃない?」なんて言って小糸が「そうなのかな?」と聞き返すシーン。

なんというか、小糸はまず自分に重ねて考えたからこそこういうことを(ちょっと空気読めてない感じで)言っちゃったんだろうし、それは人の恋の話を聞いて、七海燈子のことを思い浮かべてたということでもあるんですよね。

あと同じシーンの、「まるで練習したみたいにすらすらと話す朱里は その言葉を一人で何度並べて飲み込んで 整理したんだろう」というモノローグがとてもいい。

応援演説の練習中だったからこそ思ったことなのかもしれないけど、小糸侑のものの見方やっぱり好きだな。

 

謎の義務感にかられてアニメの各話感想書いてたけど、ちょっと忙しいので、今後は特定のエピソードを切り取ってなんか書く感じになると思います。槙くんの記事みたいな感じで。

メモ:特別に対する距離感 (「やがて君になる」槙聖司についての覚え書き) - しゆろぐ

 

メモ:特別に対する距離感 (「やがて君になる」槙聖司についての覚え書き)

注意:やがて君になる」4巻までのネタバレあり

主人公小糸侑と、アニメ4話でちょうど出番のくる槙聖司くんについての、簡単な覚え書きです。特別がわからない主人公・小糸侑と同じ位置にいるようで少し違う槙聖司について、彼にとっての「特別」をすこしまとめた上で、適当なことを書いてみます。

ちなみにネタバレ前にAmazonリンクを挟むのは、ネタバレが目に入らないためのクッションのつもりでいつもやってます。

3話の感想は待って……。

アニメの4話までではなく、漫画の4巻までのネタバレです

続きを読む

日記:「隻眼の少女」

しばらく前からずーっと読んでいたけど、1部が終わって2部に入ったあたりからは一気に読んだ。

舞台は古式ゆかしき謎の一族がでてくる謎の屋敷。探偵役は母親から探偵業を受け継いだ隻眼の少女、御陵みかげ。初めて事件に関わることとなるデビュー戦。

ワトスン役はたまたま犯人に仕立て上げられた大学生。彼の境遇はというと、浮気がバレた父が母を殺し、そしてふとした瞬間に彼もまた父親を突き落として殺してしまうという悲惨なもの。幸か不幸か父の死は事故として処理されたが、彼もまた死のうとして村を訪れ、事件に巻き込まれる。

色々な意味で、探偵役とワトスン役が今後どうなっていくか、というところも楽しめる作品だった。

 

探偵役をつとめるみかげは「不整合」から推理を行う。

この作品で重要な問題は、「犯人による捜査を攪乱するための証拠と本物の証拠をどう見分けるか」というところにある。「この時間に殺人が可能なのはこの人だけだった」「この空間に侵入できるのはこの人だけだった」という不可能状況を中心にした事件は犯人を明確に特定できるかもしれない。アリバイや鍵を中心にしたトリックはこういう綺麗な推理をつくりやすい。しかしながら、事件現場の何げない証拠から犯人を特定するタイプの推理では、「犯人がわざとそういう証拠を残しただけではないか」という可能性が否定し切れない。

本作はそういう問題について1つの誠実な回答を示しているので、そういうややこしいことが気になる人は読んでみるといいと思う。(しかしながら、まだ突っ込める余地はありそうだとも思う)

 

この作品の真犯人はかなり優秀だが、その凄まじい犯行も、容疑者全員にアリバイがなかった、という背景に支えられている気もする。その点は玉に瑕なのだろうか、それとも俺が犯行の全貌について読み逃しているだけか。

一部と二部にまたがって発動する大仕掛けはさすが麻耶雄嵩って感じだけど、俺は短編作品のほうがやっぱり好きかもしれない。

二部に入るにあたって20年近く時間が経過するのですが、そういう時代の流れによって変化する一族とか、探偵とワトスンとかの描写も魅力かも。感想をあさったら桜庭一樹の「赤朽葉家の伝説」を搦めて語っている方がいたのですが、俺も読んでいてなんとなく「赤朽葉家の伝説」を思い出しました。

一部はかなりつらかったけど、二部まで読んじゃうと割とすっきりしたかなー。

ネタバレなしで語れる作品ではないのですが、敢えて語らずに終わります。

隻眼の少女 (文春文庫)

隻眼の少女 (文春文庫)