日記:「ジョゼと虎と魚たち」

邦画が見たくなったので、第二弾。

恋愛ものです。

 

あらすじ

早朝に乳母車を押している老婆がいるらしい。薬物の取引かもしれない。バイト先でそんな噂話を耳にしていた大学四年生の男は、まさに乳母車を押していた老婆と、その乳母車のなかにいた、足の不自由な女と出会う。二人は単に散歩をしていただけだった。なんだかんだあり、男は老婆と女の家に招かれ、朝食をごちそうになるが、そこで女の気の強いふるまいに惹かれる。さらに男はバイト先で、噂話の真相を確かめるために老婆を襲おうとする粗暴な輩の話を聞き、忠告のためにもう一度彼女に会いに行くことになる。そんな風にすこしずつ、彼と彼女は交流を深めていく。障害ものというよりは、恋愛ものかなぁと思います。

雑感

 妻夫木聡演じる恒夫の、快活さというか、良くも悪くも「ふつー」の男の子ぶりがよかった。ここでいう「ふつー」は、ふつーにいい人であり、ふつーにだらしなかったり考えが足りないところもある、みたいな意味。平均値、という意味ではない。実際、稀有な気がする。それに対して、池脇千鶴演じるジョゼの、ふつーじゃない感じ。人を寄せ付けないような、孤高のような、気の強さ。しかし、本に夢中になったときには無垢だったりもする。この非対称的な二人が交流を深めていく様子が心地いい。

他の一面として、ある種の障害を扱っている部分がすごく上手だなと思う反面、日常のさりげない差別意識の写し取り方が(露骨すぎるかもしれないけど)生々しくて、いやなことを思い出してしまう人もいるかもしれない。そういう面をあまり見せない恒夫ですら、「ふつー」の人が持っている考えの足りなさを発揮してしまう場面がやはりある。

かといって、それがすべて、つまり「障害を扱った映画です」ともあまり言いたくないなーなどと。

うまく言葉にならない。

ジャケットを見てもらえば、美しい画だなということがなんとなくわかると思う。誰かが置き去りにした写真をめくっているような気分で、いくつかの場面が印象に残ると思う。青春、というのが適切かもしれない。ままならないところも含めて、青春のお話。

 

作品の感想をネタバレなしでどれくらい書けるか、ということをいつも頭に思い浮かべるけど、実際に書いてみると想像とは勝手が違う。この作品は、そこまでトリックがあるような話でもないし、ネタバレなしでも十分に感想が書けるかなぁと思ったけど、結構むずかしい。というわけで、以下ネタバレです。

ジョゼと虎と魚たち(通常版) [DVD]

ジョゼと虎と魚たち(通常版) [DVD]

 

 

続きを読む

日記:「海街diary」

邦画が見たくなってきたので。

ちょうど今、是枝監督の「三度目の殺人」が上映している。それを見に行くかはわからないけど、是枝監督の作品を見ようと思った。そんな経緯。

あらすじ

あらすじを語るのもあんまり意味がないタイプのお話。三姉妹が鎌倉で暮らしてて、再々婚した父親の葬式に赴くことになる。そこで、父親の再婚相手の女の子と出会い、長女が女の子に、一緒に暮らさないかと持ち掛ける。女の子はうなずき、三姉妹の更に妹となる。共同生活が始まる。色々なことが起こる。

こういうあらすじには大事なところが描かれていない。葬式は鎌倉から遠い、山あいの田舎町。女の子は再々婚の家庭になじんでいる感じがあんまりしない。女の子は姉妹の父親の世話を最後までしていた。再々婚の相手は、ちょっと頼りなくて、葬式でも彼女がやるべきところを女の子に任せようとする始末。三姉妹の長女に聞かれて、女の子が父との思い出の場所に三姉妹を案内してくれる。その場所は、海がないことを除けば、鎌倉の景色にちょっと似ている。この映画の大事なところは、そういうところにある。それは、何気ない情景であり、やりとりであり、生活である。劇的なエピソードではなく、連綿と続き有機的に関係する細やかな出来事のなかで、物語が描き出されていく。

雑感 

ぼやーっと見てて、楽しかった。映像も、穏やかに美的センスが爆発している感じだし。打ち上げ花火の映し方も、手持ち花火をやっているシーンも。家の映し方も、食堂の映し方も、街並みも、桜並木も、ぜんぶぜんぶ。

あらすじの部分は出来事とか、生活とか、書いたけど、構成とか人物の配置はかなり象徴的な面もあるなぁと思う。

好きなのは、母と長女のやりとり。喧嘩になるくらいで、不器用で、でもやっぱり家族で、みたいなもの。どんなに離れてもやっぱり家族、なんて言葉が出てきてしまう点で家族は一種の呪いでもあるけど、それでもそこにある何かを信じたくなってしまう。そういう絶妙なやりとりが、うまい。こういうところも含めて家族は一種の呪いなのかもしれないけど。

食事が印象的だ。生しらす丼にせよ、しらすトーストにせよ、シーフードカレーにせよ、ちくわカレーにせよ、そこには個人の物語が息づいている。食べなくちゃ生きていけないし、ほとんどの子供にとって、食事は与えられるものだから、そこには与えた誰かとの思い出がある。具体的には親だったり、祖父母だったり、食堂の人だったり。

色々な形で人とのつながりを描いている作品だった、なんてまとめ方はただまとめているだけで、きっとそれだけの話じゃない。でも葬式なんていうのは、やっぱりそういう面を象徴していて、死んだ人間の下に集まるのは、その人とつながりがあった人々なんだと思う。

ネタバレとか↓

 

続きを読む

日記:「ゴーン・ガール」

無関係な話だけど、「この映画(ゴーン・ガール)の感想は男女で分かれるかもしれない」 みたいな意見を見るたびに、すべてがつまらない男と女の二元論に人間が回収されていく、みたいな気持ちになりませんか。俺はなります。まぁこの映画はそういう映画なのかもしれません。

そんなことはさておき、ゴーン・ガールです。

 

あらすじ

ある女性の失踪の物語にして、結婚のお話。

冒頭は、失踪後の物語と夫婦の過去の物語が交互に語られていく。そのうちに、失踪した女性の夫・ダンが妻の血液型すら知らないこと、妻の親友の存在すら知らないことが明らかになる。ほかにもいくつかの事実が、彼らの夫婦関係を描き出し、過激な報道のせいもあってか世論は段々と「彼が妻を殺したのではないか?」という方向へと傾いていく。ダンは妻を殺したのか。夫婦に何があったのか。真相をめぐるサスペンスでありながら、真相が明かされたあともサスペンスであり続ける映画。

映像

オープニングで彼らが住むミズーリ州のとある町のカットが流れる。都会から離れた牧歌的な町。そういう町の何気ない部分を、何気ないまま美しく写し撮る手腕がいい。同じフィンチャー監督のセブンを見たときにも思ったが、映像が洗練されている。しかし、セブンは目を奪われるほど”芸術的な”シーンも多かったが、本作は物語のなかで適切な画が適切に洗練されている。だからこそ、何らかの芸術性を伴う終盤のあるシーンがひときわ象徴的になっている。

(そもそもセブンで芸術的な事件現場は、犯人がそういう趣向だったにすぎないのだから、そりゃそういうシーンは少ないだろうけど)

物語

夫婦の溝、失踪、加熱する報道、容疑者になる夫。新たな事実が、いっそう彼を追い詰めていく。そういうひりひりサスペンスも、もちろん面白い。しかしもっと面白いのは、世間なんか飛び越したところにある夫婦の関係性であり、それをどういう風にとらえるにしろ、そこに本作の面白みが詰まっていると思う。もちろん、その夫婦の関係性を含めてサスペンスなんだけど。

あまり本題ではないけど、夫が妻を殺したのか、殺していないなら妻がどうして失踪したのかという物語であることは知っていたので、パーティで夫が妻に声をかけるシーンや、プロポーズのシーンのめちゃくちゃ気取ったセリフが見ていて、こう、あれだった。

ここからはネタバレです

ブログの構成を2パーセントくらい頑張ってみたけど、ネタバレまでの文字量が無駄に増える上にどこにでもありそうな文章になってしまうね。

 

続きを読む

日記:「メルカトルかく語りき」「貴族探偵」(ネタバレなし)

ひょんなきっかけから麻耶雄嵩作品を読んでいた。メルカトルかく語りきが、初めての麻耶雄嵩作品で、次に貴族探偵を読んだ。

メルカトルかく語りき (講談社文庫)

メルカトルかく語りき (講談社文庫)

 
貴族探偵 (集英社文庫)

貴族探偵 (集英社文庫)

 

知らない人向け:麻耶雄嵩はミステリ作家です。(なんの紹介にもなってない)

この二つの作品は対称的で、メルカトルかく語りきがトリッキーかつアンチミステリとかメタミステリみたいな要素を含んでいる一方、貴族探偵は極めて王道なミステリ作品だと思う。もちろん、貴族探偵は、「推理などという雑事は使用人に任せればいい」と宣う奇特な探偵が主役で、「そんなやつが探偵を名乗っていいのか」みたいなところで、王道のミステリっぽくはない。でも、そういう奇特な要素を掲げながら、トリックや推理が王道をゆくものだからこそ面白い。

そこまでネタバレはしないはず。

続きを読む

日記:「マイ・インターン」

冒頭のベンの語りになんとなく共感する。

恵まれているはずなのに、欠けているような、足りない気持ちになることがある。

もっとも俺はベンのように優秀で気が利いて「行き届いた」人物ではないけど。

 

当初、「若手社長のもとにシニアインターンがくる」みたいな人づてのあらすじとか、「すべてを手に入れたはずの彼女に訪れた試練。そこにやってきたのは70歳の新人だった」というDVDのジャケットにかかれたキャッチコピーから、「職場の価値観とはずれた老人がやってきて、最初は若手社長が苦労させられるけど、次第に打ち解けていき、70歳の新人の能力も生きるようになってくる」みたいなあらすじを想像していた。

実際には、シニアインターンのベンはすぐに職場になじむ優秀な新人だったし、そこでひと悶着というほどのひと悶着もない。わりと順調に物語は進んでいく。物語は順調すぎるとすこし物足りなくなるが、しかし新人の問題というより、社長が抱えていた問題に物語がフォーカスされ始めるので、そこまで順調すぎるということもない。

ストレスが少ない形で、何かをこなしていくこと、頑張っていくことのやりがいみたいなものを描いている作品だと思う。

ベンとアン・ハサウェイ演じる若手社長・ジュールズの関係性もいいけど、ベンを取り巻く男たちの、どこかあどけない感じがよかった。

 

あと日本語話者なので、「さよなら」という日本語の挨拶が唐突に出てきたときなんとなく嬉しい気持ちになってしまった。こういう感情は単純すぎてよくないと思うけど、うまく捨てられない。

 

 

日記:「ダンケルク」

見てきたぜIMAX

とにかく画面がでかい。ここまで大画面じゃ逆に画面が見渡せなくて、重要な部分を見落としてしまうんじゃないかというくらいにはでかい。これでも最大ではなくて、ダンケルクの映像を100パーセント見るには足りないタイプのIMAXというんだから恐ろしい。

舞台は第二次世界大戦、フランスが降伏する直前あたり、着々と侵攻するドイツにフランスの「ダンケルク」という港町に追い込まれて包囲されたイギリス軍。その、泥臭い、という言葉では済まない撤退戦を刻々と描いた映画となっている。

冒頭が好きだ。荒廃した、しかし美しい街並みのダンケルク。当て所なく歩く兵士たち。彼らのもとに、無数のビラが舞い落ちる。ビラに書いてあるのは、「包囲した、降伏せよ」という勧告。道端に転がるホースに口をつけて水を補給しようとする兵士もいる。そこから突発的に始まる銃撃戦。

無数になにかが舞い落ちる構図はそれだけで美しい。ずるい。しかし舞い落ちるビラは、その場を歩く兵士たちにとって残酷なもの。街並みも美しいなか、どこか荒廃している。市街地には不釣り合いな兵士の格好。美しさと絶望の同居が、絶望をより深いものとして描き出している。また銃撃戦のシーンは音響にこだわっているIMAXだと、実際に発砲があったかと疑うくらいには、むしろ実際の発砲はここまで恐ろしい音ではないだろうというくらいには迫力がある。

彼らの撤退戦はそこから海に舞台を移していくわけだが、この映画は決して取り残された兵士だけを描くものではない。兵士たちの一週間、彼らを救うために募集された民間船がダンケルクにたどり着くための一日、そして撤退戦を援護する戦闘機乗りの一時間。ここら辺は説明する気がないのでそこらへんの映画宣伝サイトとかで確認してほしい。

 総評としては、緊張感、緊迫感、息が詰まるような感じ。そういうものを描くのがとても上手な映画だった。ひたすら人の心を追い詰めるような音楽も、その助けをしている。3つの異なる時間を描く作品なのに、シーンが変わろうとも同じ音楽をそのまま流していてシームレスにつながっているのも印象的。初めての戦争映画みたいなところがあるので、他の戦争映画と比較してどうかは知らない。

一方、息が詰まるような緊迫感にもいろいろあって、静寂が似合うようなものもある。この映画ではそういう恐ろしさは少なかった。音響が派手だし。まぁ仮にも戦場なので、静かではないだろうけど。

ここからネタバレありで徒然と。(ここまではネタバレではなかったと言い張る)

DUNKIRK

DUNKIRK

 

 

続きを読む

日記:「007スカイフォール」

カジノロワイヤルに続いてスカイフォールも見た。

慰めの報酬は評判がよくなかったので飛ばしてしまった。

カジノロワイヤルの次にこれを見たせいか、ボンドに完璧なスパイというイメージがあんまりない。割とダメなシーンが多い二作なんだろうとは思う。

アクションシーンのシチュエーションが軒並みいい。トルコの汽車の屋根の上での追いかけっこ、 上海のビル高所での格闘、マカオ軍艦島、そしてスコットランドにあるボンドの生家。

ガラス張りのビルで戦う様子はどうしてか神秘的だし、マカオの賭場はエキゾチックな雰囲気で素敵だ。こういうお金のかかった撮影は、さすがの大作といったところ。

ちょっとしたシーンでも凝った構図が見え隠れする。風景をばーーーって写すところとかもいいし、街でのアクションシーンももちろんド派手だ。地下鉄がぐわーーーって。

語彙力が低下している。

それに、ラストバトルの舞台がボンドの生家、というのがいい。彼の生家スカイフォールは、まわりになんにもないような平原にぽつんと立つ屋敷で、本当にエモい。湖と平地だけが広がり、足を延ばしても森しかない。そんなところで、ボンドは上司とともに、敵を迎え撃つ。

ロケーションのよさと派手なアクションシーンで殴って来るような快作。アクションは苦手だけど、たまにはこういうのもいい。