日記:苦手なタイプの物語の「トンネル」

下の記事がすこし話題になっていた。

物語の「トンネル」を通りたくない人は意外と多いのかもしれない - ジゴワットレポート

詳細は本文を読んでほしいが、ここでいう「トンネル」というのは物語における「胃が痛い展開」とか窮地とかを指している。「トンネル」があるからこそ、そこを抜けたときにカタルシスがあったり、先の展開が読めない楽しさがあったりするけれど、一方で、そういう物語の「トンネル」が苦手な人もいるんだなーといった内容になっている。

カタルシスという言葉は、こういう「トンネル」の存在を前提にするもので、多くの物語に「トンネル」は付き物だと思う。にしても、「トンネル」という表現はわかりやすくていい。

上の記事を読んで、自分について考えてみると、好きなタイプの「トンネル」と苦手なタイプ「トンネル」があるなぁとなんとなく思った。

例えば以前、北村薫の「スキップ」を冒頭で読めなくなってしまったのだが、これは私が苦手なタイプのトンネルの話なのだと思う。

 

 

 

スキップ (新潮文庫)

スキップ (新潮文庫)

 

 「スキップ」を簡単に説明すると、ある女子高生が目覚めると人生が「スキップ」して子持ちの42歳になっていた、という話。

文字通りスキップなので、植物状態になっていたとかではなく、本人が認識できていないだけで就職もしているし、結婚もしているし、子供もいる。ただ本人の認識としては女子高生だったはずなのに、いつの間にか42歳になっていて、周囲の世界も数十年分の月日がきっちり流れている。

私は、主人公の認識と周囲の認識にズレが生じていて、主人公が奇異の目で見られる展開が苦手だ。

(便宜的に主人公と書いたけど、主人公かどうかはあまり関係ない)

全然読めていないから、そんな展開はないかもしれないが、自分をまだ女子高生だと思っている主人公が夫や子供との会話で、「頭がおかしくなった」と思われたり、「ふざけている」と思われたり、そういう奇異の目で見られることになるといった展開を想像すると、苦しくて読めなくなってしまった。

 

 

涼宮ハルヒの消失 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの消失 (角川スニーカー文庫)

 

同じようなパターンで「涼宮ハルヒの消失」も断念している。

涼宮ハルヒの消失」は、涼宮ハルヒシリーズの4作目で、簡潔に言えば主人公のキョンが現実によく似たパラレルワールドに飛ばされる物語だ。

元の世界のキョンSOS団というグループに所属してる。SOS団には他に、宇宙人の長門有希、未来人の朝比奈みくる、超能力者の古泉一樹、そしてそういった宇宙人や未来人の存在を望んでいながら他のメンバーの正体を知らない涼宮ハルヒが在籍している。コメディチックなSF、という感じの設定。

しかしながら「涼宮ハルヒの消失」においてキョンが飛ばされるパラレルワールドには、SOS団というグループがそもそも存在せず、例えばメンバーの一人であった朝比奈はキョンのことを一切覚えていない。宇宙人であったはずの長門も、その世界においては普通の女の子でしかない。

涼宮ハルヒの消失」はそういう設定で始まる物語なので、主人公が自分のことを知らない相手に知り合いのつもりで話しかけたり、果てはただの女の子に対して宇宙人だったときの彼女を前提に話そうとしたりする。

これも、私が苦手な展開にあてはまる。すなわち、主人公の認識と周囲の認識にズレが生じていて、主人公が奇異の目で見られる展開だ。

まぁこれも相当序盤で読むのをやめてしまったので、実際に奇異にみられる展開があるのかはあんまり知らない。でもそういう場面を想像するだけで結構きつい。

 

北村薫も、涼宮ハルヒシリーズも、どちらも嫌いなわけではないので、いつかは読みたいのだが、いつになることやら。

 

続きが読めなくなるほど苦手なので、これを突き詰めて考えていけば自分が抱いている潜在的な恐怖や自分の性質とかがわかって楽しいかもしれない。

以前先輩にこの話をしたら、そういう苦しみがあってこそのフィクションじゃないか、という話になった。それについてはよくわかる。

一方で、気持ちいい苦痛と、本当に無理な苦痛がある、となんとなく思う。「トンネル」を通りたくないという感情があるとして、それは本当に一緒くたにできる感情なんだろうか。「トンネル」の種類によって、左右されるという人もそれなりにいるんじゃないかなーというのが個人的な感想。

人が死ぬ展開が苦手な人もいれば、仲間に裏切られる展開が苦手な人もいるだろうけど、そういう人だって、私の苦手な「主人公の認識と周囲の認識にズレが生じていて、主人公が奇異の目で見られる展開」なら大丈夫だったりするかもしれない。

逆に、「胃が痛い展開」をすいすい読めると思っている人も、思わぬところで自分が読めなくなってしまうほど苦手な「トンネル」に行き当たるかもしれない。

本当に苦手だからこそ自分の大事な部分に近づけるということもあるだろうから、むしろそういう物語に出会えることこそ幸運なのかもしれないけど。

 

話の落としどころがわからなくなったので、以下、胃が痛い展開が印象的だった、でも大好きな作品を宣伝して終わることにします。

羣青 上 (IKKI COMIX)

羣青 上 (IKKI COMIX)