日記:「体育館の殺人」
体育館の殺人をかいつまんで説明するなら、「わかりやすく、スリリングで、何より由緒正しき本格推理小説」みたいな感じになります。
だから、「読んでてつらくなくて本格ミステリの面白みがわかる作品ある?」みたいなことを聞かれたら、間違いなく「体育館の殺人」を私は推します。
冒頭で事件が起きる。密室殺人というわかりやすい謎が提示される。ものによってミステリは最後の最後まで推理を隠すため、見せ場にかけてしまうこともある。が、この作品は序盤で犯人候補された生徒の疑いを晴らすシーンが物語を盛り上げる。しかも複雑な証拠は何もなく、序盤で提示された簡単な証拠品だけで探偵役は疑いを晴らしてしまう! 学生が探偵役であるこのシリーズだが、無実の生徒が警察に疑われることで、学生に推理をさせる必然性を用意しているのも上手だ。
そこから、真犯人を突き止めるための捜査が始まる。探偵役が学生であるため、手がかりを手に入れるために工夫があるが、そこもコメディとして面白かったり。
何よりこの作品がスリリングなのは、捜査が進めば進むほど、犯人が脱出した密室の強度があがっていくことだろう。捜査が進み、証人が増えるほど、犯人が置かれた状況が難しく、犯人に残された細工の時間が減っていくので「そんな状況で犯人はどうやって逃げおおせるんだ?」という一種のタイムリミット系サスペンスのような楽しみも出てくる。
創元推理文庫には、すべての作品に英題がついている。
この作品の邦題はご存知綾辻行人の館シリーズが元ネタだが、英題も面白い。
その名は、”The Black Umbrella Mystery”
英題のとおり、この作品の証拠品で最も重要なのは黒い傘である。
体育館のトイレに残っていた濡れた黒い傘一つから、探偵役は無実の生徒の疑いを晴らし、そして犯人を指摘する、と言っても過言ではない。もちろんほかの証拠も大事だが、たった一つの証拠品からこれでもかというほど推理を引き出すのがこの作品のミステリとしての魅力である。
推理の材料もそれほど多くないので、わかりやすく、シンプルで、それでいてロジカルな推理に皆さんも挑戦してみてはいかがだろうか。
この先ネタバレ
ネタバレと言っても本当に一行ほどしか書きたいことがないのですが、冒頭で犯人が完全犯罪がうんやかんやとか言っているわりに、実際にはかなりギリギリの状況になってるのがめちゃくちゃ面白い。
密室の必然性がある密室はよい。