日記:「Kanon」

 Kanonをやった。ヒロインが5人いて、各キャラクターと仲良くなる(?)とそのキャラクターの話を読めるという、いわゆるギャルゲー形式のゲーム。キャラクターの魅力ももちろん重視されているけど、泣かせるシナリオが持ち味で、当時は「泣きゲー」なんて言ってもてはやされたらしい。ある意味その筋の古典みたいなもんだと認識してプレイした。

実際には泣いていないけど、けっこう心にくる話は多かった。あざといくらいに鉄板の「泣かせる」話を持ってくるので、あざとすぎるのが嫌だとダメだろうけど、許容できる人、あざとい話に慣れていない人はわりと楽しめるんじゃないだろうか。今とは違う当時の萌え?系に対する耐性も必要かもしれないけど。

こういう形式のゲームは初めてやったので、このゲームの特徴なのかジャンル全般の特徴なのかわからないけど、各キャラクターとの交流において、しつこいくらい似た描写の繰り返しがあるのが面白かった。寝坊して遅刻しないように走る描写とか。夜の校舎で何かと戦っているキャラクターに差し入れを持っていく描写とか。同居しているキャラクターが就寝後にタチの悪いいたずらをしかけてくるとか。それぞれ10回くらいはあったような。もちろん一回一回の描写に細かい違いや会話の積み重ねがあるので、冗長というわけではない。こういう「繰り返される」描写で日常っぽさを強調して、最後の展開で泣かせてくる感じなんだと思う。

ネットで中途半端に前情報を知っていたのも反映しつつ、舞→あゆ→名雪→真琴→栞の順番にお話を見ていった。あゆのシナリオについては最初に見たほうがいいという意見と最後に見たほうがいいという意見を見たが、個人的には最初に見るのがおすすめ。ラストは栞の話がわりときれいに収まる感じがするかな。実際には割と雑に選択肢を選んでいたので、あゆの話は二番目に見ることになったけど。

テキストが中心の物語をゲームでやることの面白さに、音楽や画面といった演出と文章の同居があると思う。あとこのゲームは、画面の下四分の一くらいのエリアに表示されるテキストボックスに文章が載るので、「段落のない」文章になっているのもちょっと面白い。

ここからはネタバレもまじえつつ、雑多に書きなぐっていく。

Kanon ~Standard Edition~ 全年齢対象版

Kanon ~Standard Edition~ 全年齢対象版

 

 

 

個人的に水準が高かった、と思ったのは真琴の話と、栞の話。

まぁどちらも死に近づいていく物語なので、ずるい気もする。

ただ真琴のエピソードはノベルゲームが持つ文章の強みをかなり生かしている。終盤は衰弱していく真琴の描写と思い出作りの描写が畳みかけるように襲ってくるわけだが、必ずしも描写を書き込まないところがうまい。冬の花火の描写なんかが顕著で、実際に花火をしている様子についてはほとんど具体的に描かれないけど、印象に残る。こういうのはいかにも小説的な感じがする。中盤まではキャラクターと仲良くするゲームの形式でセリフが多めなのでその落差もありつつ、真琴の時間がどんどんと削られていく中、主人公が頭をひねって真琴の時間をよいものにしようという抵抗が克明に描かれている。

先ほどあげた、「段落がない」というのも重要かもしれない。テキストボックスに映し出される一行か二行ちょっとの文章が連綿と続いていくことで、読み返すことのできる整理された文章というよりは映像のように不可逆に出来事が過ぎていく。「文章ならでは」の演出と「ゲームが持つ映像らしさ」のようなものが、真琴のシナリオをこれでもかと盛り上げる。音楽については言うまでもない。常に表示されていた日付が消え、主人公にとって平日とか休日とかがあまり意味をなさないものになっているように思えるところもいい。実際、最終日は何の説明もなく主人公が学校を休んで、後からそれを指摘される。

 

同じく死に向かっていく話だが、栞の話はむしろ逆で、終盤に日常性が復活していく。調子がいいとは言え、死を宣告された日時の直前まで割と普通に動けてるじゃないか、みたいに突っ込みたい気もするが、そういう芸風ということで。こちらはむしろ、キャラクターの表情の変化と台詞と表示みたいな、細々したところがきれいだったと思う。やりとりも印象に残るものが多かった。やりとりができなくなっていく真琴のシナリオと比較するなら、キャラクターが持つ性質が色濃くでているというべきだろうか。

栞のシナリオの素晴らしい点は、単一のシナリオというより、あゆのシナリオを踏まえた物語として出来がいいところ。もうすこしあゆと栞のかかわりがあったらもっと綺麗だとも思うけど。基本的に誰かのシナリオに進むと他のキャラクターとのかかわりが一切なくなったり影が薄くなったりする仕組みになっているので、やっぱり物語全体を見渡したシナリオとして綺麗だと思う。名雪のシナリオにもあゆは関わっているけど、栞ほど奇跡に対する言及がないので、うーむ。

個人的な好みで言っても真琴のシナリオと栞のシナリオは好きで、これは名雪が終盤までしっかり登場しているからというのもある。

あゆや真琴は明確に物語から立ち去るけど、名雪は全体的にフェードアウトするような……。

 

個人的に苦手だった点としては、幼い雰囲気のキャラクターが多いところだろうか。泣き顔の立ち絵とかすぐ出てくるし。シナリオ的に仕方ないんだろうけど。あと主人公がやたら「女の子なんだから」みたいに強調するのもなんとなく苦手だった。

あと、「主人公の記憶をめぐる物語」としてみるなら、あゆに関する記憶と名雪に関する記憶を同時に思い出すことがないのはどうなんだろう。真琴や舞のことは各キャラクターに深くかかわっていないと思い出せないだろうけど、名雪との物語の際にあゆについてあまり触れないのは個人的にかなしい。別のシナリオのネタバレになっちゃうっていうのもあるだろうけど。

そういう意味で、読み進める順番が固定されているFateとかは情報を与える順番を制御しているし、トゥルーエンドのあるタイプのゲームもラストの展開ですべての物語を回収できる。ただそうなっていくと、選択肢を選んでいく意味がどんどん薄れてしまうのかなぁとも。

 

あんまり触れられてないキャラクターもいますが、嫌いとかそういうわけではないので悪しからず。全シナリオについて書くパワーがなかった……。