日記:「セブン」

時系列で言うと、「プラダを着た悪魔」の翌日に「セブン」を見た。

2本合わせて、しばらく映画は見なくていいかなと思うくらいには充実した時間だった。

 

セブンについて簡潔に説明するなら、七つの大罪に見立てた猟奇的連続殺意人に挑む二人の刑事の話だ。

と言えばチープにも聞こえるが、各事件現場の描写はどこか芸術的ですらある。

執拗とも言えるほど雰囲気のあるカット、洗練された構図が、「七つの大罪に見立てた猟奇的連続殺人」に対して強い説得力を与えている。殺され方、ホラー作品かのような現場の描写にインパクトのある第一の事件、点と点がつながってゆくきっかけとなる第二の事件……単に事件が何度も起こるだけでなく、物語の構成としてそれぞれが異なった意味合いを持っているので、ぞくぞくしながら展開にのめりこんでゆけると思う。

 

セブンはいろんな風に楽しめる作品だ。芸術的とも言える狂気の殺人の魅力を楽しむカルトムービーとして、老いた刑事が若い刑事を認める過程を楽しむ刑事ものとして、もしくはアクションとダーティさの入り混じるハードボイルドかつスリリングな展開が続くタイプの刑事ものとして、純粋な映像としての魅力を楽しむ通好みの映画として、そして物語が投げかける問いを読み解く文学的な作品として。

 

全体の感想としては、やっぱりその洗練された映像が凄い。画づくりについて語る言葉を持っていないので具体的な話はできないけど、偏執的なまでに、という修飾が似合う作品ではないだろうか。有名なあのOPも、不気味ながらかっこよくて、当時カルト的な人気を博したことが一目でわかる。

あと見てほしいところとして、ラストシーンのブラッド・ピットの演技がある。過剰っぽいというか、わざとらしさがないとは言えないんだけど、それでも表情だけで物語をつくっているあのシーンはほんっとうに素晴らしいので見てほしい。

いい映画体験ができた、と自信をもって言える。

さすがフィンチャー!(フィンチャーの作品を見たのは初めてです)

 ここから先はネタバレ気味です。

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なんか上で語り切ってしまった感もある。

ちょっと最近思うこと。

狂気的な殺人事件の犯人を「お前がやっていることは空虚だ」という形で作品として決着をつけたときに、しかし狂気に満ちた殺人事件は魅力的に描かれてしまう。ここになんとなく矛盾めいたものを感じる。

もちろん、魅力的な殺人事件は、物語の箱のなかに閉じ込められているからこそ魅力的なのであって現実においては肯定されない、というロジックがつくれる。だから、作中において「現実に犯行をおこなっている」犯人が断罪されることは矛盾しない、と言える。

まぁセブンは、「お前がやっていることは空虚だ」という決着を強調していないし、むしろ犯人の計画が達成されてしまった物語とも読めるから、これはセブンとは大きく関係ないお話ではあると思う。でも少しだけ関係はある。

あなたは悪意を持ってなされた問いかけにどう答えるべきだろうか。

私は「くだらない」と答えるのがいちばんだと思う。

 

スリリングな展開は見事の一言に尽きる。

ただただ不気味な第一の事件、全貌が見え始める第二の事件、手掛かりをつかんだかと思いきや起こる第三の事件。

特に第三の事件における観客の裏切り方は巧い。どうせ死んでるだろーほらやっぱり死んでんじゃーん……えっ、ってな感じになった。びびった。

罠ではない本当の手掛かりを見つけたあとの流れもいい。これまで現場検証が主だった物語に一気に銃声が響きだす。骨董品か絵画のような芸術性から、動的な映像の快楽へ。緩急のつけ方が凄い。

 

ただ、トレイシーが相談するあたりは、割と先の展開が読めちゃうかなーという感じもした。

犯人が出頭してくるくだりまでは驚かされっぱなしだけど、ラストシーンはだいたいそうだろうなぁと。

まぁ先が読めるなんていうのは些細な話で、車のなかでの対話、鉄塔がたくさんある荒野の映像美、緊張感溢れるトラックの来襲、そして上に書いたような殺すか殺さざるか迷うミルズの演技、すべてに夢中だった。

狭い部屋や、それなりの大きさであるがやはり室内だったり、外にしても思うように動けない街中がメインの舞台だった作品のラストシーンが、だだっ広い荒野というのも面白い。

 

ラストシーンについては、のんきに「あー撃っちゃったかぁ」とか思ってた。けど、色々考え方はあるみたいだ。

ただ個人的には、上で書いたように、悪意を以てなされた問いかけには「くだらない」と答えたい。

その点で、勝ち負けを気にして殺すべきではないと言っていたサマセットには賛同できない。敢えて勝ち負けを気にするなら、勝ちとか負けとか言ってしまう時点で負けなのだ。かといって、ミルズのように撃つべきだったかもわからない。

やっぱり、「答えざるを得ない問い」をぶつけた時点で、犯人の勝ちなのかもしれない。

 

比較的、犯人との対決みたいな展開は好きな部類なのだけど、いまいちもやもやしてのれなかった節がある。

純粋な知恵比べのほうがマシだ。

ミルズに投げかけた残酷な問いかけも構図としては美しい。実際に、彼を追い詰めたことだろう。

しかし個人的には、彼はつたない絵が完成して喜んでいる子供に見えてしまう。

うーん。

こういうところまで含めて、きっと狙い通りなんだろうなぁという感じだけど。