メモ:決意と不安定さと飛び石と (アニメやがて君になる6話によせて)

飛び石とは、石を飛び飛びに並べてつくった簡単な橋のようなものを指す。

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(画像はフリー素材です)

 

庭園の道も飛び石と呼ぶことがあるが、ここで注目するのは川を渡るための橋としての飛び石である。かなり主観的な話だが、川を横切る飛び石を渡ったり、そこでやりとりをするシーンは印象に残ることが多い。「たまこラブストーリー」や「月がきれい」なんかが好例だ。

アニメ「やがて君になる」6話においても、作中において大切なやりとりを行うシーンが、飛び石の上で行われていた。

 

川を横切る飛び石は、歩くに際してすこしだけ不安定な足場なのだと思う。

と同時に、こちら側とあちら側をつなぐものでもある。

人間と人間の関係を描くには、わかりやすい象徴になる。

 

そんなこんなで、「たまこラブストーリー」「月がきれい」という飛び石でのやりとりを扱った先行作品の内容に触れた上で、「やがて君になる」の飛び石シーンについて簡単に紹介してみたい。ちなみに引用の相場がよくわかってなくて本編の画像は一切ない。

各作品の内容には触れすぎないようにしますが、ある程度それまでの経緯を説明することになるのでネタバレを警戒する人は自衛してください。

やがて君になる」に関しては漫画2巻orアニメ6話までを履修していることが前提です。

たまこラブストーリー」については映画の中盤の内容ですが、「たまこまーけっと」を前提にした映画版になっています。「月がきれい」については最終話の内容になります。「やがて君になる」については、原作10話アニメ6話の内容になります。

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メモ:「借りてきたX」構文?(Vtuberを例に)

借りてきた猫は本来、「その日、太郎は借りてきた猫のようだった」のように、特定の人物が普段とは異なった形で非常におとなしくなっている状態を「借りてきた猫」にたとえて評する表現となっている。

しかしながら、「借りてきたX」のX部分に猫以外の生物を入れる表現をすこし前から目にする機会があったので紹介してみたい。

ただし、厳密な検証とかはしていない。ざっと見ただけ。

 

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日記:アニメ「やがて君になる」3話

見ました(遅い)。

3話は原作でいう4話5話の内容ですが、原作5話の冒頭をOP前に持ってきたり、原作4話のラストをエンディングに持ってきたりで、「アニメ3話」としての再構成が丁寧ですね。

 

日記:アニメ「やがて君になる」1話 - しゆろぐ

日記:アニメ「やがて君になる」2話 - しゆろぐ

 

追加とか演出とかで気になるところはこんなところ。

・間接キスのシーンで小糸侑がネコに目を奪われるシーンの追加。

意識しまくってる七海燈子に対して小糸が何も気にしていないのがわかる。

・朱里がフられた話をするシーンで、アイスクリームが溶ける演出。

ちょうど直前まで顔が表示されてるし、形になってない涙を描いてるのかな。

・選挙結果の掲示のシーンで、小糸がその場から立ち去ろうとする描写が追加

深い意味があるというより、ほかのクラスメイト?とか生徒会メンバー?とかがいる状況での小糸のスタンスというか距離感の保ち方があらわれているかも。

 

あと、全体的に小糸の呆れ顔が真顔になってるシーンが多かったかもしれません。

 

作品の中の前提条件「小糸侑は今のところ人を特別に見ない」「七海燈子は自分を特別に見ない小糸侑を求めている」がとうとう提示された回ですね。

人を好きになれないことを「私は星に届かない(1話タイトル)」と表現される小糸侑が家庭用プラネタリウムをプレゼントされ、自分も星に届くのだろうかと考える回でもある。

 

アニメを見て改めて思ったこと。

朱里を慰めようとこよみが「好きって思われ続けてたらその気になるもんじゃない?」なんて言って小糸が「そうなのかな?」と聞き返すシーン。

なんというか、小糸はまず自分に重ねて考えたからこそこういうことを(ちょっと空気読めてない感じで)言っちゃったんだろうし、それは人の恋の話を聞いて、七海燈子のことを思い浮かべてたということでもあるんですよね。

あと同じシーンの、「まるで練習したみたいにすらすらと話す朱里は その言葉を一人で何度並べて飲み込んで 整理したんだろう」というモノローグがとてもいい。

応援演説の練習中だったからこそ思ったことなのかもしれないけど、小糸侑のものの見方やっぱり好きだな。

 

謎の義務感にかられてアニメの各話感想書いてたけど、ちょっと忙しいので、今後は特定のエピソードを切り取ってなんか書く感じになると思います。槙くんの記事みたいな感じで。

メモ:特別に対する距離感 (「やがて君になる」槙聖司についての覚え書き) - しゆろぐ

 

メモ:特別に対する距離感 (「やがて君になる」槙聖司についての覚え書き)

注意:やがて君になる」4巻までのネタバレあり

主人公小糸侑と、アニメ4話でちょうど出番のくる槙聖司くんについての、簡単な覚え書きです。特別がわからない主人公・小糸侑と同じ位置にいるようで少し違う槙聖司について、彼にとっての「特別」をすこしまとめた上で、適当なことを書いてみます。

ちなみにネタバレ前にAmazonリンクを挟むのは、ネタバレが目に入らないためのクッションのつもりでいつもやってます。

3話の感想は待って……。

アニメの4話までではなく、漫画の4巻までのネタバレです

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日記:「隻眼の少女」

しばらく前からずーっと読んでいたけど、1部が終わって2部に入ったあたりからは一気に読んだ。

舞台は古式ゆかしき謎の一族がでてくる謎の屋敷。探偵役は母親から探偵業を受け継いだ隻眼の少女、御陵みかげ。初めて事件に関わることとなるデビュー戦。

ワトスン役はたまたま犯人に仕立て上げられた大学生。彼の境遇はというと、浮気がバレた父が母を殺し、そしてふとした瞬間に彼もまた父親を突き落として殺してしまうという悲惨なもの。幸か不幸か父の死は事故として処理されたが、彼もまた死のうとして村を訪れ、事件に巻き込まれる。

色々な意味で、探偵役とワトスン役が今後どうなっていくか、というところも楽しめる作品だった。

 

探偵役をつとめるみかげは「不整合」から推理を行う。

この作品で重要な問題は、「犯人による捜査を攪乱するための証拠と本物の証拠をどう見分けるか」というところにある。「この時間に殺人が可能なのはこの人だけだった」「この空間に侵入できるのはこの人だけだった」という不可能状況を中心にした事件は犯人を明確に特定できるかもしれない。アリバイや鍵を中心にしたトリックはこういう綺麗な推理をつくりやすい。しかしながら、事件現場の何げない証拠から犯人を特定するタイプの推理では、「犯人がわざとそういう証拠を残しただけではないか」という可能性が否定し切れない。

本作はそういう問題について1つの誠実な回答を示しているので、そういうややこしいことが気になる人は読んでみるといいと思う。(しかしながら、まだ突っ込める余地はありそうだとも思う)

 

この作品の真犯人はかなり優秀だが、その凄まじい犯行も、容疑者全員にアリバイがなかった、という背景に支えられている気もする。その点は玉に瑕なのだろうか、それとも俺が犯行の全貌について読み逃しているだけか。

一部と二部にまたがって発動する大仕掛けはさすが麻耶雄嵩って感じだけど、俺は短編作品のほうがやっぱり好きかもしれない。

二部に入るにあたって20年近く時間が経過するのですが、そういう時代の流れによって変化する一族とか、探偵とワトスンとかの描写も魅力かも。感想をあさったら桜庭一樹の「赤朽葉家の伝説」を搦めて語っている方がいたのですが、俺も読んでいてなんとなく「赤朽葉家の伝説」を思い出しました。

一部はかなりつらかったけど、二部まで読んじゃうと割とすっきりしたかなー。

ネタバレなしで語れる作品ではないのですが、敢えて語らずに終わります。

隻眼の少女 (文春文庫)

隻眼の少女 (文春文庫)

 

 

日記:アニメ「やがて君になる」2話

見ました。

 

各話感想リスト

日記:アニメ「やがて君になる」1話 - しゆろぐ

日記:アニメ「やがて君になる」2話 - しゆろぐ

 

佐伯沙弥香からの「ずるい」に始まり、小糸侑の刺すような「ずるい」が続き、再び小糸侑の調子を狂わされたような「ずるい」で終わる。そんな話。ずるい女、七海燈子。

 

OPはたくさん花がでてくる。

私は花言葉で意味づけをすることにすこしだけ抵抗があるんだけど、そういうことを考えたほうがいいんだろうか。そういう部分について知りたい人は下記のブログを参照するといいと思う。

やがて君になる アニメOPの花について - スパイダースノーマット

他の部分についてはネタバレありということで後述します。

 

本編みどころまとめ(原作からの追加)

・七海燈子と並んで歩く佐伯沙弥香

小糸の脳内イメージ。原作では沙弥香が一歩後ろを歩いているように見えるが、アニメでは隣にいる。

・OP前に小糸を見つける沙弥香

佐伯先輩に責任者を任せればいいのにと悩む小糸→それを見つける沙弥香→沙弥香と話す七海、みたいな感じで展開がスムーズになってる?

・体育の授業中にわざわざ髪をほどいて、沙弥香に結びなおさせる七海燈子

地味に重要?な原作からの追加シーン。わりと習慣的にお世話されているのかもしれない。ただ授業中一瞬試合から抜けるくらいで髪をほどくのはどうしてだろう。拗ねてる沙弥香と話すに際して七海なりに向き合った結果?

・電車の風で舞う葉っぱが桜に変わる

正直、演出が過剰にも見えるけど、こういう具体的なモチーフを使った演出が今後どう効いてくるかは気になるところ

・「何も感じなかった」の後に、また例の踏切を通る描写

原作からの追加。

小糸の表情は何も思っていないのか、何も思っていない自分を眺めているのか。

・集合写真前の小糸のモノローグ

原作にはない。キスをしたあとに再び「ずるい」と思うまでの流れを自然にするためか、もう一度「先輩は特別を知らないんじゃないか」という期待をする小糸のモノローグが追加されている。原作より期待が重い感じしますね。

・水は疎外感のイメージ?

1話でも足元を水が満たすイメージが疎外感の演出として機能していたけど、2話でも海に沈むイメージがそういう演出として機能している。

「私は星には届かない」という1話のタイトルをふまえると、星から遠い場所のイメージとして海の底があるのかもしれない。でもラストのきらきらは、太陽の光が海面を照らしたような光にも見える。

 

アニメ版を見て、原作の侑の心情はもっとフラットに見えたなぁとかやっぱり思っちゃうところもあるけど、状況をことこまかに見ていくと、小糸侑は恋を知らないなりに恋に憧れていて、だからこそ間近で恋を知っていく七海燈子の様子に動揺というか、なんらかの感情を抱いているんだろうなぁとも思う。

 

ここからは漫画4巻までのネタバレ有り

 

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日記:「南極料理人」

言い知れぬ幸福感に包み込まれる映画でした。

中盤、季節が冬になったあたりで次々と発狂していく隊員の様子にげらげら笑ったりもしたけど、基本的には、食事を手掛かりにしてどこまでも日常を描いていく作品だったと思う。

 

主人公の西村は南極観測隊員、調理担当。

でも、本当は別の同僚が行くはずで、本人は南極に行くなんてこと考えてすらいなくて、不服そう。観測隊員も奇妙奇天烈なメンバーばかり。

俺はこういう映画を見始めるとき、きまって「あと二時間俺はこれを本当に見続けることができるのか? 本当に?」という謎の警戒心を覚えてしまう人間なのですが、実際に見始めたら一瞬です。

でも総じて細部やこまごまとしたやりとりが面白い作品だったから、うまく感想が書けない……。

 

見てるほうも、最初は、「絶対こんな奴らと閉鎖環境で暮らしたくねー!」って思うと思うんですよね。変人ばっかだし。トイレすら丸見えだし。

せっかく伊勢海老があったのに、刺身とかにすればいいのに、隊員たちがエビフライが食べたいというからエビフライをつくったら「刺身だったな」と文句を言われたりする理不尽さだったり。(見てる側は笑えるシーンだけど)

でも、ある隊員の誕生日あたりから、少しずつ風向きが変わってくる。火力が足りなくてお祝い用の肉を焼けないから、外に出て肉に直接火をつけて焼いて、そんなことをしてるうちに楽しくなってきちゃって燃え盛る肉を持って走り回るシーンとか。冬が来る前に氷上で野球をするシーンとか。(しかも、白線の代わりにシロップをかためて球場をつくるあたりも楽しそう)

 

終盤にワンカットで、朝の食卓に人が集まってごはんを食べるまでの様子が長々と写される。そのシーンにたどり着くあたりには、終わっちゃうのかぁと本気で寂しくなっているはず。俺は寂しかった。ほかのシーンで描かれるのはあくまでエピソードなんだけど、このシーンは本当にただの日常の一風景を切り取っただけのシーンになっていて、それがものすごく愛おしい。

このシーンがなんで愛おしいのかといえば、確かに彼らのやりとりがほほえましいというのもあるのだけど、やっぱり細かい描写の積み重ね。細かい描写の積み重ねが凄くいいんだ。わかったか? 見なきゃ始まらないぞ。

このシーンで特に好きなのが、箸入れから堺雅人が箸を取り出す一瞬の描写です。たぶん長さとか色にばらつきのある箸をごちゃっと箸入れにいれてるから、揃えるまでにかちゃかちゃやって箸を探す描写がある。現実で、自分の立場でそういう状況に遭遇してもただうっとうしいだけなんだけど、映画というフィルターを通してみると「生活の生っぽさ」が途端に愛おしく感じるようになる。

同じ監督の「横道世乃介」も同じような性質の作品なので、感想を書けずに終わってしまったが、今回は頑張って書いてみた。

あ、髪を伸ばしっぱなしの堺雅人がとてもよかったです。

この先ネタバレ要素ありで箇条書き

 

南極料理人

南極料理人

 

 

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