日記:「マイ・インターン」

冒頭のベンの語りになんとなく共感する。

恵まれているはずなのに、欠けているような、足りない気持ちになることがある。

もっとも俺はベンのように優秀で気が利いて「行き届いた」人物ではないけど。

 

当初、「若手社長のもとにシニアインターンがくる」みたいな人づてのあらすじとか、「すべてを手に入れたはずの彼女に訪れた試練。そこにやってきたのは70歳の新人だった」というDVDのジャケットにかかれたキャッチコピーから、「職場の価値観とはずれた老人がやってきて、最初は若手社長が苦労させられるけど、次第に打ち解けていき、70歳の新人の能力も生きるようになってくる」みたいなあらすじを想像していた。

実際には、シニアインターンのベンはすぐに職場になじむ優秀な新人だったし、そこでひと悶着というほどのひと悶着もない。わりと順調に物語は進んでいく。物語は順調すぎるとすこし物足りなくなるが、しかし新人の問題というより、社長が抱えていた問題に物語がフォーカスされ始めるので、そこまで順調すぎるということもない。

ストレスが少ない形で、何かをこなしていくこと、頑張っていくことのやりがいみたいなものを描いている作品だと思う。

ベンとアン・ハサウェイ演じる若手社長・ジュールズの関係性もいいけど、ベンを取り巻く男たちの、どこかあどけない感じがよかった。

 

あと日本語話者なので、「さよなら」という日本語の挨拶が唐突に出てきたときなんとなく嬉しい気持ちになってしまった。こういう感情は単純すぎてよくないと思うけど、うまく捨てられない。

 

 

日記:「ダンケルク」

見てきたぜIMAX

とにかく画面がでかい。ここまで大画面じゃ逆に画面が見渡せなくて、重要な部分を見落としてしまうんじゃないかというくらいにはでかい。これでも最大ではなくて、ダンケルクの映像を100パーセント見るには足りないタイプのIMAXというんだから恐ろしい。

舞台は第二次世界大戦、フランスが降伏する直前あたり、着々と侵攻するドイツにフランスの「ダンケルク」という港町に追い込まれて包囲されたイギリス軍。その、泥臭い、という言葉では済まない撤退戦を刻々と描いた映画となっている。

冒頭が好きだ。荒廃した、しかし美しい街並みのダンケルク。当て所なく歩く兵士たち。彼らのもとに、無数のビラが舞い落ちる。ビラに書いてあるのは、「包囲した、降伏せよ」という勧告。道端に転がるホースに口をつけて水を補給しようとする兵士もいる。そこから突発的に始まる銃撃戦。

無数になにかが舞い落ちる構図はそれだけで美しい。ずるい。しかし舞い落ちるビラは、その場を歩く兵士たちにとって残酷なもの。街並みも美しいなか、どこか荒廃している。市街地には不釣り合いな兵士の格好。美しさと絶望の同居が、絶望をより深いものとして描き出している。また銃撃戦のシーンは音響にこだわっているIMAXだと、実際に発砲があったかと疑うくらいには、むしろ実際の発砲はここまで恐ろしい音ではないだろうというくらいには迫力がある。

彼らの撤退戦はそこから海に舞台を移していくわけだが、この映画は決して取り残された兵士だけを描くものではない。兵士たちの一週間、彼らを救うために募集された民間船がダンケルクにたどり着くための一日、そして撤退戦を援護する戦闘機乗りの一時間。ここら辺は説明する気がないのでそこらへんの映画宣伝サイトとかで確認してほしい。

 総評としては、緊張感、緊迫感、息が詰まるような感じ。そういうものを描くのがとても上手な映画だった。ひたすら人の心を追い詰めるような音楽も、その助けをしている。3つの異なる時間を描く作品なのに、シーンが変わろうとも同じ音楽をそのまま流していてシームレスにつながっているのも印象的。初めての戦争映画みたいなところがあるので、他の戦争映画と比較してどうかは知らない。

一方、息が詰まるような緊迫感にもいろいろあって、静寂が似合うようなものもある。この映画ではそういう恐ろしさは少なかった。音響が派手だし。まぁ仮にも戦場なので、静かではないだろうけど。

ここからネタバレありで徒然と。(ここまではネタバレではなかったと言い張る)

DUNKIRK

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日記:「007スカイフォール」

カジノロワイヤルに続いてスカイフォールも見た。

慰めの報酬は評判がよくなかったので飛ばしてしまった。

カジノロワイヤルの次にこれを見たせいか、ボンドに完璧なスパイというイメージがあんまりない。割とダメなシーンが多い二作なんだろうとは思う。

アクションシーンのシチュエーションが軒並みいい。トルコの汽車の屋根の上での追いかけっこ、 上海のビル高所での格闘、マカオ軍艦島、そしてスコットランドにあるボンドの生家。

ガラス張りのビルで戦う様子はどうしてか神秘的だし、マカオの賭場はエキゾチックな雰囲気で素敵だ。こういうお金のかかった撮影は、さすがの大作といったところ。

ちょっとしたシーンでも凝った構図が見え隠れする。風景をばーーーって写すところとかもいいし、街でのアクションシーンももちろんド派手だ。地下鉄がぐわーーーって。

語彙力が低下している。

それに、ラストバトルの舞台がボンドの生家、というのがいい。彼の生家スカイフォールは、まわりになんにもないような平原にぽつんと立つ屋敷で、本当にエモい。湖と平地だけが広がり、足を延ばしても森しかない。そんなところで、ボンドは上司とともに、敵を迎え撃つ。

ロケーションのよさと派手なアクションシーンで殴って来るような快作。アクションは苦手だけど、たまにはこういうのもいい。

 

日記:「4分間のピアニスト」

ピアニストの話が見たいとか、百合系の文脈で紹介されているとかで気になっていた。

※百合系の文脈

レズビアン映画 洋画編(2017年更新) - 奇妙な店長の戯言部屋

映画『4分間のピアニスト』感想 - 石壁に百合の花咲く

極めつけは、どこかの紹介文に書いてあった「ラスト4分間の衝撃的な演奏」みたいな文句。それで、見なくちゃ!という気分になった。

天才だが囚人であるピアニストと、教師が物語の中心になっている。

彼女が劇中で最初に演奏するシーンは、教師と同じ心境・感動が共有できると思う。圧巻のシーン。ラスト4分間の演奏より、こっちや、手錠をしたままピアノを弾くシーンのほうが好きかもしれない。

 

演奏の話はうまく書けないので離れると、教師クリューガーと囚人ジェニーの力関係みたいなものがいい。どちらかといえば粗暴にふるまうジェニーが、音楽という文脈のなかでクリューガーにやり込められたり、逆に、やはりそれで制御しきれない面があったり。また、音楽という面ですらクリューガーは優位に立っているわけではなく、才能に価値を見出しているからこその力関係でもある。緊張がある。

ある種の妨害役として看守が出てくるが、これも簡単な悪役ではない。教師、天才ピアニストの囚人、看守、それを戯画化しすぎず、それぞれのバックボーンをふまえて描き出しているのがいい。

 前回、セブンの感想を無駄に長く書いてしまって力尽き気味かもしれない……。

おもしろかった。

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詩:ぜんぶ私でした

ぜんぶ私でした。

ぐつぐつと煮えたぎる日光をいとおしいと感じながら走り回っていたのも、撫でるように包んでくれるうららかな陽光をうとましいと感じながら逃げ回っていたのも、ぜんぶ私でした。雨が降っているからという理由で、約束をすべて裏切って、飛び乗った電車で海まで行って帰ってこなかったのも私です。傘を持っていない少年に傘を差しだして、自分はずぶぬれになって帰ったのも私です。

友達の誕生日プレゼントを選ぶために、ひねもすショッピングモールで迷っていたのも私です。友達がもらった賞状を、第三準備室に隠したのも私です。私はあなたが好きでした。私はあなたが嫌いでした。あなたが貸してくれたCDの、二番目に入っていた静かな音楽は、今でもたまに聞くことがあります。

 

 

空をゆく鳥の群れに訳もなく喜ぶのも私でしょう。

同じ景色に、何も思わずただ目的地を目指すのも私でしょう。

どちらかがより中心的ということもなく、ただ頻度でそれに近しい結論を出すばかり。

私とあなたは明確に違うけど、あなたに比べて私が優等であるとか、私に比べてあなたが優等であるとか、そういう話は熱を出した日曜日の粉薬のように苦い。

月食は見ましたか。

あんなものつまらないと思うあなたも、それなのに日常の三日月が輝いて見えるあなたも、あなたなんだろうと思います。

先週のフリーマーケットで、薄汚れたボロボロの私を見かけました。

本棚の隅っこに飾るくらいならちょうどよいと買いました。

日記:忘れていく

どんな記憶が自分のなかに残っているかはわからないもので、小学生のときに熱心に読んでいたダレン・シャンのことはすっかり忘れているのに、当時人気だったから抑えておこう程度に思っていたハリー・ポッターのことはしっかり覚えている。

 

ハリー・ポッターは各巻のタイトルをすらすらいえる。賢者の石、秘密の部屋、アズカバンの囚人、炎のゴブレット、不死鳥の騎士団、謎のプリンス(半純血のプリンス)、死の秘宝。

ここだけの話、死の秘宝は小説で読んだきりで、映画はまだ見ていない。

ダレン・シャンはかなりおぼつかない。この前試しに思い起こしてみたら、奇怪なサーカス、若きバンパイア、バンパイアクリスマスあたりまではしっかり覚えているのだけど、そこから先があやふやだった。あやふやなので間違いを含んでいるが、バンパイアの試練、バンパイアマウンテン、バンパイアハンター、黄昏のバンパイア、真夜中の同志、夜明けの覇者、精霊の湖、11巻に至っては検討もつかず、運命の息子。

まず、4巻と5巻の順番が逆で、バンパイアマウンテン→バンパイアの試練という時系列である。6巻はバンパイアの運命で、7巻が黄昏のハンターだ。上で思い起こしているタイトルは黄昏のハンターが二つの分割されているらしい。8巻、9巻、10巻、12巻は正しい。11巻は闇の帝王。なのだが、6巻と11巻については答えを見てもピンと来ない。

 

これも当時読んでいたファンタジー小説のセブンスタワーについては、一巻のタイトルさえ思い浮かばなかった。

忘れていく。

日記:「セブン」

時系列で言うと、「プラダを着た悪魔」の翌日に「セブン」を見た。

2本合わせて、しばらく映画は見なくていいかなと思うくらいには充実した時間だった。

 

セブンについて簡潔に説明するなら、七つの大罪に見立てた猟奇的連続殺意人に挑む二人の刑事の話だ。

と言えばチープにも聞こえるが、各事件現場の描写はどこか芸術的ですらある。

執拗とも言えるほど雰囲気のあるカット、洗練された構図が、「七つの大罪に見立てた猟奇的連続殺人」に対して強い説得力を与えている。殺され方、ホラー作品かのような現場の描写にインパクトのある第一の事件、点と点がつながってゆくきっかけとなる第二の事件……単に事件が何度も起こるだけでなく、物語の構成としてそれぞれが異なった意味合いを持っているので、ぞくぞくしながら展開にのめりこんでゆけると思う。

 

セブンはいろんな風に楽しめる作品だ。芸術的とも言える狂気の殺人の魅力を楽しむカルトムービーとして、老いた刑事が若い刑事を認める過程を楽しむ刑事ものとして、もしくはアクションとダーティさの入り混じるハードボイルドかつスリリングな展開が続くタイプの刑事ものとして、純粋な映像としての魅力を楽しむ通好みの映画として、そして物語が投げかける問いを読み解く文学的な作品として。

 

全体の感想としては、やっぱりその洗練された映像が凄い。画づくりについて語る言葉を持っていないので具体的な話はできないけど、偏執的なまでに、という修飾が似合う作品ではないだろうか。有名なあのOPも、不気味ながらかっこよくて、当時カルト的な人気を博したことが一目でわかる。

あと見てほしいところとして、ラストシーンのブラッド・ピットの演技がある。過剰っぽいというか、わざとらしさがないとは言えないんだけど、それでも表情だけで物語をつくっているあのシーンはほんっとうに素晴らしいので見てほしい。

いい映画体験ができた、と自信をもって言える。

さすがフィンチャー!(フィンチャーの作品を見たのは初めてです)

 ここから先はネタバレ気味です。

セブン [DVD]

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